「恋愛、セックス、結婚、出産はぜんぶ拒否!」怒れる韓国女性たちの「4B運動」とは?
A Korean War
隠しカメラや暴行映像の流布といったデジタル性犯罪に怒りの声を上げる女性たち(2018年、ソウル) JEAN CHUNG/GETTY IMAGES
<根底には「女性が悪い」という意識。リアルでもネットでも性犯罪の蔓延に韓国女性たちは、もう黙ってはいられない。その戦いが社会に突き付けるものについて>
韓国でジェンダー戦争が顕在化してきたのは、ここ十数年のことだ。2010年頃、女性蔑視的な言論で知られる右派系コミュニティーサイト「イルベ」に、性的な投稿が目立つようになった。
すると15年、女性蔑視をそっくり男性に置き換えて、過激な言論を展開するフェミニストサイトの「メガリア」が登場した。
16年、女性嫌いを公言していた男が、ソウルのカラオケ店のトイレで見ず知らずの女性を殺害する事件が起きた。
犯人は懲役30年の判決を受けたが、犯人の動機をめぐり大論争が起きた。フェミニストたちは女性差別が原因だとし、多くの男性は精神疾患が原因だと主張した。事件現場で、2つのグループがにらみ合う事態も起きた。
デジタル性犯罪の急増は、こうしたジェンダー対立を一段と悪化させた。女性のスカート内の撮影や、隠しカメラを使った脱衣場面の撮影、さらにはリベンジポルノなど、テクノロジーの進歩によって新しい犯罪が急増した。
統計に表れているだけでも、18年は2289件だったデジタル性犯罪は、21年には1万353件へと急増している。
根強い「女性が悪い」
19年は、社会をとりわけ大きく揺るがすデジタル性犯罪事件が2つあった。1つは、複数の男性Kポップスターが、女性の性的動画を無断で撮影し、グループチャットで共有していた事件。もう1つは、数万人が関わっていたともされる「N番部屋事件」だ。
これは、複数のチャットルーム(部屋)で女性の性的写真や動画が共有されていた事件で、数十人の被害者には未成年者もいたようだ。彼女たちは犯人グループに個人情報を握られ、それを暴露すると脅されて、性的コンテンツの提供を強いられていた。
だが19年の韓国政府の調査によると、国民の多くはこうした性犯罪の原因が女性にあると考えていた。
露出度の高い服を着ているから性犯罪に巻き込まれるのだと考える人は52%、酔って性的暴行を受けた場合、女性側にも責任の一端があると考える人は37%にも上った。
デジタル性犯罪は、一握りの悪質な人間の仕業と呼ぶには、あまりにも広範に及んでいる。筆者の考えでは、問題の根底には、韓国に長く存在する「ジェンダー市民権」とも呼ぶべき問題がある。
ジェンダー市民権が遠因
韓国では、20世紀後半に経済社会の近代化を図るなかで、政府がジェンダーに基づき国民の役割を規定したと、米バッサー大学でフェミニズムを研究するスンスク・ムン教授は指摘する。
「男性は兵役に駆り出され、その後は労働者や研究者として活用された。一方、女性はレベルの低い工場労働を任され、近代国家の一員としての役割は出産と家庭の切り盛りと規定された」
こうしたジェンダー別の役割分担は、もはや政策としては実行されていないが、その基本的な考え方は社会に染み付いている。母親でも専業主婦でもない女性たちは、世間でもプライベートでも後ろ指をさされるのだ。
政府はジェンダー市民権を是正するため、一部の業界で新規採用にクオータ制(割り当て制)を導入している。
例えば、一部官公庁では新規採用者に占める女性の割合を定めており、民間にも同様の措置を促している。建設業など伝統的に男性が多い業種では女性枠を設け、教育など歴史的に女性が多い業種では男性枠が設けられている。
だが、これはジェンダー間の競争といがみ合いを悪化させる結果をもたらした。近年のインフレや失業率の上昇により、若い世代では特に競争が激しくなっている。
そんななか、将来に夢も希望も持てなくなった若者は「N放世代」と呼ばれる。もはや結婚や出産、就職、マイホーム、さらには友達を持つことさえも諦めたというのだ。
これは若い男女に共通するトレンドだが、それを実践すると女性のほうがバッシングを受けやすい。
結婚や出産を見送ると、「自分勝手」と見なされる。そうした女性たちが、「罰として」デジタル性犯罪の犠牲になることもある。
究極的には、かつての韓国政府がジェンダー市民権を推進したことが、現代のジェンダー戦争をもたらし、その武器としてデジタル性犯罪が利用されているとも言える。
韓国の女性が異性との恋愛も結婚も出産も拒否する4B運動は、オンラインでもオフラインでも男性のいない世界をつくろうというジェンダー戦争がエスカレートしたトレンドだ。
彼女たちは男性と議論することさえも拒み、男性との交流自体を拒否している。とはいえ、デジタル性犯罪は韓国だけの問題ではない。
アメリカの大学で授業をすると、高校時代にデジタル性犯罪の被害に遭った、あるいはデジタル性犯罪が起きていることを知っていたと語る学生が多いことに驚かされる。
昨年の全米女性学会(NWSA)の年次総会では、世界中の研究者が自国におけるデジタル性犯罪を報告した。この犯罪が増加している背景には、それぞれの国の文化があり、一概に有効な解決策を説くことはできない。
だが韓国の場合、ジェンダー市民権の解体に注力することが解決の一助になるだろう。
Min Joo Lee, Postdoctoral Fellow, Indiana University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.