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下品で不快と言われても『ラストナイト・イン・ソーホー』は称賛に値する意欲作

Outgrowing London’s Past

2021年12月10日(金)15時16分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

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©2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

『ラストナイト・イン・ソーホー』の優れた映像技術は、この中盤部分に詰まっている。サンディが危険な冒険にのみ込まれていくなか、鏡がある場面でだけ、心配そうに彼女を眺めるパジャマ姿のエロイーズが映し出される。

サンディがダンスホールでジャックと踊るシーンは、クラクラするような360度ショットで、エロイーズとサンディが交互に入れ替わる。あるいは、サンディが鏡張りの階段を下りていくシーンは、鏡の中のエロイーズのショットが織り込まれ、妄想の世界にのめり込んでいくエロイーズのアイデンティティーの分裂が美しく表現されている。

ライトは、カメラの位置や動きを通じてストーリー(やジョーク)を描くのが得意なことで知られる。今回それを助けたのは、ライトとの初コラボレーションとなる韓国出身の撮影監督チョン・ジョンフン。パク・チャヌク監督らの作品で撮影を任されてきた映像の名人だ。

残酷ミステリーの作風に加えて、『ラストナイト・イン・ソーホー』には、マーティン・スコセッシ監督の1985年の作品『アフター・アワーズ』の影響が強く感じられる。技術職に就くサラリーマンが、ひょんなことからニューヨークの夜の世界を垣間見る物語だ(ただし、こちらはコメディータッチだったが)。

最後は消化不良かも?

エロイーズのように、20代でイギリス南西部の地方からロンドンに出てきたライトの、この街への強い思い入れも感じられる。多くのシーンがスタジオではなくロケで撮影され、ある地区全体を1960年代風に再現しようとしたという。

汚らしいパブや、現代では見られない小さな商店、追走劇にぴったりの薄暗い路地などは、映画全体を覆う不気味な雰囲気づくりに貢献している。衣装も、エロイーズの夢と現実の境目を曖昧にする重要な役割を果たす。

最後の20分については、非倫理的だとか、不快だとか、下品だといった批判もありそうだ。血みどろのアクションによって明らかになる意外な真相は、それまで観客が注目するよう仕向けられてきたサスペンスを裏切るもので、どこか消化不良な気分になる。

映画界ではよく、女性があくまで脇役で、人物描写は薄っぺらく、物語を進めるために便宜的に配置される存在にすぎないと批判されることがある。

『ラストナイト・イン・ソーホー』の場合、それはいい意味でも悪い意味でも、男性の登場人物に起こる。エロイーズのクラスメイトと銀髪の老人は、意味ありげな存在として登場するが、実際には大した意味を持たない。

だが有望なアーティストは、常に新しい表現スタイルを探るものだ。ライトが過去のロンドンへのノスタルジーを描きつつ、自分の成功のノスタルジーに浸らなかったことは、この映画における彼の最大の功績と言えるだろう。

©2021 The Slate Group

『ラストナイト・イン・ソーホー』
LAST NIGHT IN SOHO
監督/エドガー・ライト
主演/アニャ・テイラージョイ、トーマシン・マッケンジー
日本公開は12月10日

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