進歩派なようで実は差別的な構造に執着...リアルすぎる大学教授たちの世界
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オー演じる英文学者ジユンは女性初、そして有色人種初の学科長として難題だらけの英文学科を切り回せるか ELIZA MORSE/NETFLIX
<名門大学の学科長に就任したアジア系女性教授の挑戦を描くドラマ『ザ・チェア』を、現実のアジア系女性学科長はどう見たか>
ネットフリックスの新シリーズ『ザ・チェア~私は学科長~』配信開始を前に、私たち大学教員は少し恥ずかしいくらい盛り上がっていた。
ドラマの主人公は、サンドラ・オー演じる英文学科教授のジユン・キム。179年の歴史を誇る名門ペンブローク大学(米東部の一流私立大学を思わせる架空の大学だ)で、ジユンが女性としても有色人種としても初めて学科長に就任して──。
このようなストーリーが発表されると、大学教員たちのツイッターはこのドラマの話題で持ち切りになった。どのくらい大学の実情を反映した内容になるのか。19世紀アメリカの詩人エミリー・ディキンソンを専門とする40代の女性英文学者である主人公ジユンは、どんな服装で登場するのか。話題は尽きなかった。
実は『ザ・チェア』の制作が発表される1年ほど前に、アジア系の私自身も140年の歴史を持つ大学で有色人種女性として初めて正教授に昇進した。そしてその後程なく、ジェンダー・セクシュアリティー学科長にも就任することになった。
自分の立場が主人公と非常によく似ているので、どうしても思い入れが強くなる。そこで、あまり大きな期待を抱き過ぎないようにと自分に言い聞かせて見ることにした。
大学を舞台にしたドラマ、とりわけ人文系の研究者を描くドラマは、たいていひどい失敗作に終わる。人文系の研究者は概して、地味な職業生活を送っているからだ。何をしているかが見えにくく、孤独に精神を削られながら働いている。成功したときの報酬も、ほかの「エリート職」に比べれば微々たるものだ。
一方で、自尊心の高い大学教員たちはいかにも高尚で重要な仕事をしているように振る舞っているが、その日常は一皮めくれば不条理に満ちている。
深く根を張る差別の構造
『ザ・チェア』の共同原作・制作者であるアマンダ・ピートとアニー・ジュリア・ワイマンは、そうした大学の実態を的確に描くことに成功している(ワイマンはハーバード大学で博士号を取得した英文学者でもある)。大学をテーマにした作品でよく見られる堅苦しさを捨てて、コミカルなトーンを打ち出しているのだ。このほうが大学教員の滑稽な日常にふさわしい。
視聴者は、混乱のなかでも落ち着きを保とうとする新米の学科長ジユンを応援せずにいられない。ところが、ジユンの取り組みは、大学にしぶとく根を張る女性差別と人種差別により、ことごとく押しつぶされてしまう。