感染症対策に有効というビタミンD、どれだけ取れば大丈夫?
もう1つは、高価な一般の医薬品を売りたい製薬企業が、特許が取れず、安価で利益が薄いビタミンD製品を積極的に販売しないと思われる点だ。
3つ目は、医師たちが注意を払わない点だ。非常に多くの医師たちがビタミンDの重要性について知らず(おそらく医師養成の課程で教わっていない)、症例ももっていない。博士によると、通常、医師たちにとってビタミンDは注目に値しない体の要素だという。そのため、たとえ患者の血中ビタミンD濃度が低くても、ほとんどの場合は患者に何も言わない。
また、ビタミンDの積極的摂取への異論がなくならない点も関係している。製薬企業や医師たちが「ビタミンDは役に立つ可能性が低い」と情報発信すれば、人々は混乱する。
ビタミンD不足は冬眠と同じ状態
リーネル博士は数十年来、精神心理的なカウンセリングを行い、ほかのビタミン類と合わせてビタミンDの重要性を力説する。博士はビタミンDの大切さを簡潔に説明してくれた。
「ビタミンDは900~2千の遺伝子をコントロールします。つまり、それは細胞の成長をコントロールするということです。わかりやすく言うと、ビタミンD不足の人は冬眠している状態です。クマなどの動物は冬眠中エネルギーを節約するわけですが、人間がビタミンD不足だと新陳代謝が不活発になるのです」
リーネル博士がビタミンDの効果を信じるのは、数々の症例を見てきたからだ。驚くような話もしてくれた。
「私は精神分析とともに、慢性痛(主にがんや潰瘍性大腸炎など基礎疾患に伴う長期の痛みがある人や、大きな事故後の痛みをもつ人たち)のグループセラピーを長年行っています。リハビリクリニックでメンタルヘルスを担当したことが、きっかけでした。慢性痛の人たちには、瞑想や呼吸法などだけでは効果が薄かったのです。どうしたらよいかと考えて免疫学や栄養学を学んでいくうちに、ビタミンDが非常に大切だということがわかりました。それで、患者たちにビタミンD濃度を検査してもらうととても低かったのです。みなさん、ビタミンDを補給した途端に元気になりました」
「カウンセリングでも、同じことが起きました。クライアントたちが心の悩みを打ち明けにやってきても、体が疲れているとか炎症があると落ち着いて話すことができないのです。体の不調が著しいクライアントは、やはりビタミンD濃度がとても低かったのです。ビタミンDを補給して元気になったケースをたくさん見てきました」
「情報公開許可を得たクライアントのことをお話しましょう。1人は52歳の女性でした。働けないほど体調が悪くなって困り、開業医院3軒、病院2軒を回っても原因不明でした。仕事は辞めるべきと言われ、抗うつ剤を処方されていたのです。でも彼女はどうしても働きたくて、私のところへ相談に来ました。ビタミンD濃度を検査したら、10ng/mlに届いていませんでした。2週間集中でかなりの量のビタミンD を取って様子を見たら、3週間目にはそれまでのことが嘘のように働けるようになりました」
「42歳の女性は1日3度の下痢が1年も続いていました。もちろん医師に診てもらったのですが治らず、私のところに来て、もう死にたいと言いました。そのときのビタミンD濃度は20ng/mlでした。それを短期で60ng/mlにまで上げたら下痢が止まりました。また、彼女は40歳で月経が止まってしまい医師の薦めでホルモンセラピーもしていました。セラピーの効果はなかったのに、ビタミンD値が上がってすぐに月経が再開したのです」
リーネル博士は、新型コロナウイルス感染予防に関して、ビタミンDとともに、免疫力を高める(抗ウイルス作用のあるインターフェロンを増やす)ビタミンCも積極的に取ることを薦めている。
病気になったら医師がいるから安心だと、私たちは当然のように考える。しかし、自分の健康を自分で守ることができるのなら、それに越したことはない。筆者ももうしばらくビタミンDを取りながら、ほかの栄養素についても調べてみようと思っている。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com