最新記事

カルチャー

アクセス殺到でシステムパンク オペラのウェブ配信でストレス発散

Lockdown Opera

2020年05月13日(水)18時20分
コーネリア・チャニング

METは「前代未聞のトラフィック」による不具合をツイッターで謝罪。「より多くの要望に応えられるよう最善を尽くしている」と理解を求めた。実際、METのサイトは翌日には復旧した。そこにはシステムの負担を軽減するため、同時に視聴できる人の数を制限する「バーチャル行列」機能が加えられた。

各演目は毎晩、米東部時間の午後7時半に配信が始まり、以後23時間いつでも視聴できる。筆者が17日にプッチーニの『ラ・ボエーム』を見ようと、午後7時45分にMETのサイトを訪れてみると、6万9414番という整理番号を与えられた。推定待ち時間は27分だ。

一体どうしてこんなに人気なのか。まず、高尚な芸術の代表格ともいえるオぺラ、しかも世界有数の歌手の競演を無料で見られることが、大きな理由の1つだろう。

時間的な余裕も関係しているかもしれない。オぺラは上演時間が長く、休憩も含めると3〜4時間かかることも珍しくない。仕事や子育てに忙しい人がオぺラを見に行くことは、普段なら物理的に不可能に近い。だが今は違う。家族全員が自宅にそろっていて、4時間の歌劇に見入る時間はたっぷりある。

ストレス発散にぴったり

オペラには戦争や殺し、誘惑、裏切りをテーマにしたヘビーな物語が多い。それをマントやドレスを着込んだ男女が、あり得ない高音で歌い上げるのだから、普段なら10分で「おなかいっぱい」と感じる人もいるかもしれない。

200513nwwopera03.jpg

『連隊の娘』
 KEN HOWARD/MET OPERA

だが今は、新型ウイルスの感染拡大を受けて世界中の国が非常事態を宣言し、人々は恐怖に怯え、経済は崩壊しようとしている。そんななか、ゴージャスなセットで展開される過剰なほどの感情表現は妙に解放感を与えてくれる。

純粋な音楽のパワーもあるだろう。ここ数週間、イタリアで自宅隔離中の住民がそれぞれのバルコニーから合唱する映像や、米オハイオ州で2人の兄妹が隣に住む老人のためにチェロを弾く映像など、人々を癒やし、結び付ける音楽の力を見せつける映像が世界各地から届いている。

オペラの多くの演目は悲劇の物語であると同時に、人生を生き抜く物語でもあり、自己表現と人とのつながりを求める人間の本能の物語でもある。『ラ・ボエーム』の有名なアリアを一緒に歌えば、抑圧されたストレスを発散することもできる(自宅で見ているからこそできる贅沢だ)。

METのストリーミング配信は、目には見えないけれど、多くの人が一緒に舞台を見ているという連帯感ももたらしてくれる。さあ、今夜もMETのウェブサイトに急ごう。なるべく早く並んだほうがいいことをお忘れなく。

© 2020, Slate


20050519issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月19日号(5月12日発売)は「リモートワークの理想と現実」特集。快適性・安全性・効率性を高める方法は? 新型コロナで実現した「理想の働き方」はこのまま一気に普及するのか? 在宅勤務「先進国」アメリカからの最新報告。

[2020年4月 7日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、欧州PMIでユーロ一

ワールド

アングル:米政権の長射程兵器攻撃容認、背景に北朝鮮

ワールド

11月インドPMI、サービスが3カ月ぶり高水準 コ

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること