犬でも猫でもげっ歯類でもOK ペットのフリーズドライを請け負う業者を訪ねた
Freeze-Dried Pets Are Forever
生きているような表情
ルパートが取り扱う動物は全て冷凍状態で届く。チャンスもそうだった。バウザー夫妻はチャンスを上開き型の冷凍庫で凍らせ、車でルパートの元に運んできた。他の顧客は凍らせたペットを、ドライアイスを入れたクーラーボックスに詰めて送ってくる。
ルパートはまずチャンスを解凍し、目を模造のものに換え、内臓を除去し、紫色の液体(蒸留水に防腐効果のある薬品を少々混ぜたもの)を注射した。それからチャンスの体を巧みに動かしてバウザー夫妻の要望どおりのポーズを取らせ、昆虫の標本のように木の板に留め付けた。
その名のとおりカチカチに凍るくらいに温度が下がったフリーズドライ装置の内部では、チャンスの体からあらゆる水分が奪われていく。ただしそのスピードはゆっくりで、細胞は原形をとどめたまま乾燥される。ルパートはチャンスの体を触り、肉がしっかり硬くなったことを確認する。
フリーズドライ加工が済み、板からも外されたチャンスは素晴らしい仕上がりだった。生きたチワワがよく見せる、ちょっと困ったような表情をしている。この表情を見れば、フリーズドライ加工が職人技であることは明らかだ。だがルパートは、加工そのものは比較的簡単だと言う。本当に難しいのは客への対応だ。
「科学的な仕事であると同時にカウンセリングの仕事でもある」と、ルパートは言う。
「電話をかけてくるときには、大半の人が深い悲しみの中にいる。とにかく早く(遺体を)凍らせるのが大事だと伝える。それさえやってしまえば、後は急ぐ必要はない。こちらは決心がつくまで何カ月でも待てる」
人間の足の加工依頼も
顧客が剝製でなくフリーズドライを選ぶ理由はいくつかある。まず、ぺットを扱う剝製業者は多くないこと。また、フリーズドライであれば、眼球と臓器を取り除く以外、あまり遺体をいじらずに済むことだ。
中には内臓もフリーズドライにしてくれと言う客もいる (可能だがあまり出来映えはよろしくない)。「完全体でないと嫌な人もいる」と、ルパートは言う。ぺットのコーギー犬の内臓もフリーズドライにして、体内に戻しておいてほしいと依頼してきた客もいる。コーギーは結局、その状態で埋葬されたという。
死んだぺットの長期保存加工は古代エジプトの時代から行われてきたが、金持ちの道楽という側面は変わらない。セカンドライフ・フリーズドライの加工料金は、イエネコで1000ドルくらいになることもある。ビーグル犬ならその倍だ。
そして当然ながら、このビジネスと切っても切れないのが心の問題だ。「この男性は」と、ルパートは30代の独身男性のファイルを見せた。彼はイギーという猫を飼っていた。「ほとんど毎日のように問い合わせてきた。猫が乾燥機に入っているときもだ」
大きさや密度により、乾燥には数週間から数カ月かかることもある。「猫に話し掛けてやってほしいと、彼はいつも言っていた。これを伝えてほしい、あれを伝えてほしいと。心臓もフリーズドライにして、こういう色合いの青で塗ってほしいと言われたからそうしたよ」
ルパートがこの商売を始めたのは2014年。もともとは石油ガス業界で働いていたが失業した彼は、野生動物の専門家になるための学校に通っていた。そして動物のフリーズドライの達人で、剝製やタトゥーの技術にも優れたマック・マカーラの下で技術を磨いた。修業が終わると、マカーラのフリーズドライビジネスを引き継いだ。
客ファイルの束をトントンとたたきながら彼は言った。「けっこう疲れる仕事だ。(客の)最も不思議で興味深い姿を見せつけられる」
彼はファイルの1つを私に渡し、椅子に深く座ると、どうだと言わんばかりに笑みを浮かべた。何とそれは、母親が手術で片足を切断することになったので、保存加工してほしいというカリフォルニア州の男性からの依頼だった。宗教的な理由から、母が死んだときにその足を一緒に埋葬したいのだという。
法的に問題がないことを確認し、ルパートは仕事を引き受けた。ただし、愛犬(大型の狩猟犬)のモグリはよほどショックを受けたらしい。ルパートが届いた足を取り出すと工房から慌てて飛び出し、「何週間も入ってこようとしなかった」と言う。
ルパートがぺットのフリーズドライ加工ビジネスから得た教訓はシンプルだ。「死にどう対処するかはその人によって異なることを学んだ」と、彼は言う。「悲しむのに決まったやり方はないという考えを大事にすることにした」