女の赤ちゃんを捨てた──ある農村での「一人っ子政策」の深い闇
Justifying the Unjustifiable
中国だけの問題なのか
ある助産師は、5万~6万件の人工妊娠中絶や不妊手術、そして出生直後の子供の殺害に手を染めたと、『一人っ子の国』の中で打ち明けている。この助産師はその後、贖罪の日々を送っているという。
しかし、誰もが罪悪感を抱いているわけではない。「もし一人っ子政策が実施されていなければ、(人口爆発による食糧不足で)人間同士の共食いが起きていただろう」と、ある人物は語っている。
厳しい出産制限が実際にどのくらい必要不可欠だったかについては、今でも結論は出ていない。当時の中国当局は、おそらくこの政策を必要悪と見なしていた。この点では、一人っ子政策を推進した側の主張をほとんど考慮していない『一人っ子の国』の説得力に不満を感じる人もいるかもしれない。
映画では、この殺戮を生き延びた女性たちには話を聞いていない。王がそうした女性を探そうとしても、村人に手伝いを拒まれた(「そんなことをすると、あなたのお母さんがひどい目に遭うよ」と、警告した人もいた)。
そもそも、彼女たちの深い心の傷をあえてえぐる必要はなかったのかもしれない。ゴミ捨て場に放置された胎児や新生児の遺体の写真、道端に捨てられた子供たちに関する描写だけで十分だ。
ただし『一人っ子の国』では、一人っ子政策に関する歴史的な事実関係が十分に紹介されているとは言えない。
映画の中では言及されていないが、1949~76年の間に中国の人口は2倍近くに増加した。特に70年代は世界規模で人口爆発に対する懸念が高まった時代だった。このような背景は、一人っ子政策への理解を深める上で知っておくべきだろう。
さらに、一人っ子政策が廃止される以前から、多くの時期には約半分の夫婦が2人目の子供を持つことを許されていたことについても、作品は触れていない。王の両親もそうだった。
それでも『一人っ子の国』は、生きていくために誰もが残虐な行為に手を染めたり、身の回りでそうした行為を見て見ぬふりしたりしなくてはならなかった国の姿を見事に描き出している。
そのような社会では、社会の中で最も弱い立場の人たちが生身の人間として保護されるのではなく、諸悪の根源と見なされがちだ。一人っ子政策時代の中国では、高官から庶民まで多くの人がそうした発想を持たざるを得なかった。
トランプ政権下のアメリカで移民の家族が引き離されている現実を見れば明らかなように、この傾向は特定の国や集団だけに現れるものではない。しかし、私たちがその気になりさえすれば、この種の発想をはねのけることができるのもまた事実だ。
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