女の赤ちゃんを捨てた──ある農村での「一人っ子政策」の深い闇
Justifying the Unjustifiable
厳しい出産制限が実際にどのくらい必要だったかについて、今でも結論は出ていない(写真はイメージ) Grigorev_Vladimir-iStock
<中国出身の監督が故郷の農村を訪ねて出産制限のおぞましい現実に光を当てた『一人っ子の国』>
20世紀有数の極端で大掛かりな社会工学の試みだった中国の「一人っ子政策」。それを立案した中国の役人たちは、この政策がどのくらい容赦なく実行されるか予想できていたのだろうか。
1組の夫婦につき子供を原則として1人に制限する「一人っ子政策」は、1979年に導入され、2015年に正式に廃止されるまで36年間続けられた。
その間、数知れない一般国民が人工妊娠中絶や不妊手術、さらには新生児殺しに自ら手を染め、周囲の行為に見ぬふりをしてきた。彼らは残忍な行為を、自らの中でどのように正当化していたのか。
今年のサンダンス映画祭でグランプリに輝いたドキュメンタリー映画『一人っ子の国』を張嘉玲と共同で監督した王男栿は、この問いの答えが知りたかった。王と張は、一人っ子政策がしばしば悪夢のような結果をもたらしていた現実を、極めて私的な描写を通じて描き出している。
現在アメリカで暮らす王は、故郷である中国農村部の村を訪ね、親族や隣人たちに話を聞いた。当時、どのように一人っ子政策を受け入れていったのか。そのことについて、今はどう思っているのか。
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映画には、自らの幼い娘を抱いた王がたびたび登場する。1人の母親として、生まれたばかりの娘を死なせるなんて想像もできない──彼女の姿にはそんな思いが表現されている。
しかし、王のおじは、かつて女の赤ちゃんを捨てたことを打ち明ける。その子を捨てなければ私が自殺すると、自分の母親に迫られたという。『一人っ子の国』は、国家レべルで推進された絶望的な実験に関するオーラルヒストリーと見なされるべきだ。一人っ子政策の歴史を概観する内容にはなっていないが、直接的で私的な描き方のおかげで教科書的な描写よりもはるかに強烈な印象を与えている。
この政策のおぞましさが頭にこびりついて離れなくなった王は、映画を見る人たちにも自分と同じ思いを味わってほしいと考えたのだ。
王と張が一対一のインタビューを多用したのは、あまりの悲劇に圧倒されたためだろう。女の子より男の子を好む伝統が根強い社会で厳しい出産制限政策が導入された結果、中国では途方もない数の女児の命が奪われた。