ホンジュラスのコーヒーは歓迎されても人間は追い返される──知られざるコーヒー危機
Root Cause
ホンジュラスのコーヒー農園 TOMAS AYUSOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<缶コーヒーからスタバのラテまで、世界中で愛されるコーヒーの世界屈指の原産地ホンジュラスを襲う植物病と価格下落の深刻度>
14歳のホルマン・ペレス・ロペスが、ホンジュラス西部の町コルキンの自宅をこっそり抜け出したのは、昨年11月の早朝のこと。家族には行き先も、別れも告げていない。つらくてとても無理だった。
だが、父親のフリオ・ペレスには、息子がどこに向かったのか分かっていた。「多くの人が出ていった」と、ペレスは自宅のポーチで語った。目の前にはコーヒー農園が広がる。その向こうには同じような家が数十軒見える。だが、どれも空っぽだ。
「少なくとも80世帯が出ていった」とペレスは言う。「何もかも失って、そうするしかなかったのだ。私たちも今、同じ状況にある」
コルキンの多くの住民と同じように、ペレス家は何代にもわたり、コーヒー豆を生産して生計を立ててきた。だが、世界的なコーヒー豆の価格低迷と、さび病(植物病の一種で、コーヒー豆の生産を数年不可能にする)の流行で、多くの家が多額の借金をしてでも踏みとどまるか、この土地を出るかの選択を迫られた。
ぺレスの息子が選んだのは後者だ。父親と同じ道をたどっても未来はない。アメリカに行けば仕事があるはずだ。その稼ぎを故郷に送れば家族の生活の足しになるだろうと考え、ホルマンはアメリカを目指すことにした。
だが、グアテマラとメキシコの国境を流れる川を渡った所で、メキシコの移民当局に捕まり、ホンジュラス行きのバスに乗せられてしまった。「もっといい生活がしたかった」と、彼は振り返る。「家を出るのはつらい決断だったけれど、故郷には幻滅していた。仕事があるとは思えなかった」
実際、コルキンのコーヒー農園の多くには仕事がない。さび病の流行で、生産が大幅に縮小しているからだ。
ホンジュラスをはじめとする中南米諸国では、2012年にさび病が大流行。コーヒー豆の生産が最大80%減少し、 推定170万人が仕事を失った。既に立ち直った地域もあるが、コルキンは違う。地域全体での対策がほとんど取られていないことと、コーヒー豆の価格低迷が原因だ。
さび菌に感染したコーヒーの木が1本見つかると、農園全体が感染リスクにさらされる。感染した木は、葉が落ちて豆が育たない。植え替えても、新しい苗木が実をつけるまでには早くて4年かかる。