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ヒラリー・クリントン稀代のパワーカップル『ヒラリーとクリントン』、政治家の結婚を描いた笑えない喜劇
Hillary Clinton, Tragic Heroine?
有名過ぎる夫婦の「物まね」ではない演出は賛否両論 JULIETA CERVANTES
<クリントンは何に怒り、何に負けたのか......米政界パワーカップルの悲哀のドラマ>
ブロードウェイで公演中の舞台『ヒラリーとクリントン』は、「いわゆるコメディー」とただし書きが付いている。しかし幕 が上がってみれば、欠点だらけの中年のヒロインがフリースの上着にスリッパを履いて、運命に怒りをぶつける純粋な悲劇だ。 「私の思う悲劇の主人公は、時に自分や他人の行動の結果として、時に不運な時代と場所に生まれた結果として、絡み合った 環境から逃れることができない人だ」と、脚本を手掛けたルーカス・ナスは言う。
「その縄を振りほどこうと、どんな道を選んでも、必ず新たな問題が待ち受けている。(古代ギリシャの悲劇作家)ソフォクレス風に言えば、ねじれた枝を真っすぐにしようとしても、何をしたところで、枝は余計にねじれるだけだ」
ヒラリーを演じるローリー・メトカーフは、本物のヒラリー・クリントンを演じているのではないと語る。「物まねは求められなかったから、その点は気楽だった。架空の人物だ。それでも彼女が08年に(民主党予備選挙で)経験したことを調べて、大統領選の渦中にいるというのはどういうことか、感じ取ろうとした。あんな経験をどうやって乗り越えるのか、私には考えられない。永遠に終わらない、地獄の日々だ」
【参考記事】「人をイラつかせる何か」を持つヒラリー 22年も嫌われ続けるその理由
コメディー的要素を担当するのは、ジョン・リスゴー演じる夫のビル。自身の経験に基づく政治的なアドバイスは、現実世界のヒラリーにとって最も難しいアドバイスでもある。有権者は頭ではなく心で投票するとビルに言われ、彼女はぴしゃりと言い返す。「ばかばかしい、人間は成長しなくちゃいけない」
ナスは、伝記を書こうと思ったことは一度もないが、今回の作品は政治家の結婚をリアルに伝えていると語る。
ヒラリーのキャリアが、あからさまな女性蔑視に彩られてきたことは確かだ。しかしナスとメトカーフは、自分の意志で行動する欠点だらけの主人公を描く。ヒラリーが負けたのは女性蔑視の被害者だからというより、自分の選択ミスのせいだと示唆しているのかもしれない。
ブロードウェイのヒラリーは週6日、自分の運命に怒りをぶつける。車で30分ほど北にある自宅で、本物のヒラリーも怒りをぶつけているのだろうか。
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[2019年6月18日号掲載]