「私を犯した夫を訴える...」 夫婦間レイプとの向き合い方をフランスと日本から考える
DVを受けた自分と「鏡」で向き合う
小さな部屋に入ると、お菓子やコーヒーがのったテーブルを囲んで円形に座る6人の女性たちが、笑顔で出迎えてくれた。参加者は20代~50代と年齢層も幅広く、人種もアラブ系やアフリカ系フランス人など多彩だ。同団体で、ボランティアを務める心理カウンセラーのカタジナ氏が会話をリードしていく。お茶会のように、リラックスした雰囲気だ。
グループディスカッションを進行する心理カウンセラーのカタジナ氏(Photo: Ayana Nishikawa)
最初に口を開いたのが、夫婦間レイプを受けたという、パリ郊外で暮らす50代の主婦のマリオン。「元夫は、初めての彼氏だったわ。情熱的にアタックされ、20代前半で結婚したけどその後、状況は一転。口汚く罵られるようになり、売春婦のような扱いを受け、セックスを強要された...。男性経験が未熟で他の男性と比べようもなかった私は、どうしていいか分からなかった。クレジットカードも没収され、経済的にも支配されたわ。友達に相談しても共感してもらえず、一人で暗い世界の中で、鬱々としていたの」
マリオンは語気を強め、怒りを込めて机を軽くたたいた。
「若い時、あんなに希望も活力もあって『愛する人と素敵な未来』を作るために意気込んでいた少女が...。気づけば30年間、人生の大半を孤独に感じ、家事しかしてこなかった」
マリオンの話を聞き、女性たちがため息をつき、憤りを見せはじめた。目鼻立ちが整った顔が美しく、金融会社で働くキャリアウーマンの40代のセシルが言葉を漏らす。「暴力をふるう男の特徴は、洗脳することよ。元夫は『お前はブスだ』、『能無し』と私を貶(けな)し、家ではいつも怒鳴っていたわ。彼は離婚後に息子を引き取り、『お前のママは、心の弱い俺を捨てた』と息子を洗脳している。息子が父のような人間になる前に、彼を助けたい...」
すると、現在夫と別居中という20代のアイシャが涙ぐんで語る。「私は暴力を受けている自分のことを、弱くて愚かな人間に感じて辛い...。だから、DVのことは、友達にも家族にも話せないの」彼女は結婚3カ月後から夫にナイフで脅され、身体的暴力を振るわれるようになり、現在司法プロセスを進めている。
カタジナは一人一人の話に、「危険を感じて日常生活を送るのは普通じゃない。ナイフを冗談でも人に向けるのは、間違っていることです」と、「正しい行為」と「間違っている行為」のボーダーラインを明確に説明する。被害者にとって、一度は愛した人から受けた暴力行為は、善悪の判断が狂ってしまいやすいからだ。
ディスカッションが終わった後、50代のマリオンは20代のアイシャに「自分が後悔した」ことを基にアドバイスをした。アイシャは真剣に彼女の話に耳を傾ける。セシルは初対面にも関わらず、辛くて涙する参加者を、まるで昔の自分を抱擁するかのように、何十秒間も優しく抱きしめた。「同じ経験を味わった人たちと話すことは、他人という鏡で自分を映し出すこと」。前出のピノは、こう言及する。「自分だけじゃない、と気付くことでエネルギーが湧いてきます。あらゆる国、文化、宗教に属する人におこる社会問題だと知ることで、視野が広がり、『自分たちがタブーを破らないと!』と闘う勇気が出るのです」
「そうして、『おかしいこと』を直すために女性たちが一緒に前進する――。私はそれがフェミニズムだと思います」
「夫婦間レイプ」にまつわる日仏の法律を比較
司法の世界で「夫婦間レイプ」はいかに捉えられているのか。この問題に関し、日仏の法律を比較するため、「アディーレ法律事務所」の正木裕美弁護士と、カーン・ノルマンディー大学で私法と犯罪学を教える準教授マティアス・クチュリエ氏に話を伺った。
正木裕美弁護士(左)と、マティアス・クチュリエ氏(右)