女性初、LGBTQ初の米深夜番組のホストに選ばれた、フォロワー1470万人のユーチューバー
スターユーチューバー、リリー・シン Danny Moloshok-REUTERS
<「スーパーウーマン」の愛称で知られるスターユーチューバー、リリー・シンが、今秋から全米ネットワーク放送の深夜番組で総合司会者をつとめることが発表され注目されている>
3月、ユーチューバーのインド系カナダ人、リリー・シンが人気トーク番組『トゥナイト・ショー』に出演して話題を呼んだ。NBCが今年9月から新たに『ア・リトル・レイト・ウイズ・リリー・シン(A Little Late with Lilly Singh) 』という深夜番組の放映を開始することになり、シンは全米4大ネットワークの深夜枠で唯一の女性司会者となる。彼女はバイセクシャルとしても知られており、女性初、LGBTQコミュニティの一員としても初の全米の深夜ホストの誕生に注目が集まっている。
1988年カナダ生まれのシンは、2010年にユーチューバーとして登場して以来、独自のお笑い要素の強いビデオ番組で注目を浴びてきた。米国以外にアジアでもインド、香港やシンガポールを中心に絶大なる支持を得ており、現在1470万人(2019年5月)のフォロワーを抱える人気者だ。
クリエイティブでいたいという思いからユーチューバーに
シンがユーチューブへの投稿を始めたのは、心理学の学位取得を間近に控えた大学卒業直前だった。きっかけは自分がいかに「非クリエイティブか」を感じて悲しくなったからだったという。同時に卒業後の自分に不安を抱いていたが、ユーチューブの投稿を通じて「自分自身をハッピーな気分にしようとした」と米アントレプレナー誌の取材で語っている。
走り始めたシンの快進撃はあっという間だった。10年の間にユーチューブで人気を博すだけでなく、著書『How To Be A Bawse: A Guide to Conquering Life』がニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーになり、ライブのワールドツアーも果たし、シンを取り上げたドキュメンタリー『A Trip to Unicorn Island』も制作された。
2017年にはフォーブス誌のインフルエンサーランキングで首位に輝いた。昨年パートナーと番組制作会社ユニコーン・アイランド。プロダクションを設立し、ユーチューブ以外にも全国ネットワークの番組プロデュースも手がけるようになった。
ファンから「スーパーウーマン」の通称で親しまれるシンの魅力は、そもそも生活に根ざした人間観察ビデオだ。例えば、『Girl Talk As You Grow Up(大人が喋る女子高生風トーク)』や、『5 Ways Parents Drive You Insane (あなたを困らせる親の行動5つ)』などがその例だ。
加えてシンの民族的背景であるインド、パンジャブ系を彷彿させる独特な訛りの言葉遣いや言い回しをジョークにした内容も、最初から変わらぬ彼女らしいものだ。『If Game of Thrones Were Indian(もし『ゲーム・オブ・スローンズ』がインド人だったら)』はその一つ。
大学院進学を辞め、両親から1年の猶予を与えられたシンは、コメディのシナリオ作りから撮影、編集、演技までを必死で覚えたという。その甲斐あって1年で軌道に乗ったものの、24時間365日、オン・オフの区切りのないソーシャル・メディアという業界で、多大なる要求に応えながら制作活動をすることは決して楽ではない。
万国共通の笑いを提供できる
シンは10年というユーチューバー人生の中で、様々な壁を乗り越えてきたようだ。2016年のBBCのインタビューでは、「視聴者が増えるにつれて、一つの文化に焦点を当てた(シンの場合はインド系)ものではなく、もっと幅広いコンテンツを取り上げるようにしてみた。しかしすぐにそんな必要はないことに気がついた」と語った。
「世界中の人のコメントを見ていたら、『私の親もそう言っている!』と、アメリカ人も、ペルシャ人や日本人も言っていた」。つまり、彼女が提供しているコンテンツは万国共通だということに気がついたという。
こうして、自分らしさを保ちつつ、コメディ俳優や歌手としても活動の場を広げていったシン。フォロワーが増えるにつれ、ドウェイン・ジョンソンやセレーナ・ゴメス、スティーブ・アオキといったセレブたちがこぞってビデオにゲスト出演するようになった。こうしたセレブの登場で視聴数は一気に伸び、やがて彼女自身がセレブへと成長する。
ニューヨーク・タイムズ紙は、NBCがシンを深夜番組司会者に抜擢した理由として「若者の視聴者数が伸び悩むテレビ局にとっての、視聴者獲得の施策だ」とする社会学者の言葉を載せている。
若い女性であり、民族的、性的にもマイノリティーであるシンが、多様なゲストにインタビューする全米放送番組を司会する。それもコメディ要素をたっぷり込めた番組になる予定だ。この抜擢がどのように評価されるか楽しみだ。