女性に挨拶もできやしない!? でもやっぱり「職場で他人にセクハラをすべきでない」メッセージを込めた話題作
Equal Opportunity Offenders
エリー・ケンパー扮する主人公キミーVIRGINIA SHERWOODーUNIVERSAL TELEVISIONーNETFLIXー NBCU PHOTO BANK/GETTY IMAGES
<主人公が最新(&最終)シーズンでセクハラ加害者に?! 個性派コメディー『アンブレイカブル・キミー・シュミット』の衝撃>
監禁事件の被害者ながら異様に明るい女性キミーが、今度はITスタートアップの人事部長になって......。
ネットフリックスのドラマシリーズ『アンブレイカブル・キミー・シュミット』シーズン4(現在配信中)は、そんなエピソードで幕を開ける。エリー・ケンパー扮するキミー(上写真)は相変わらず前向きで、全てを楽しい体験にしようとする。社員の解雇さえも。
解雇を告げる相手カビールを自分の部長室に呼ぶと、キミーは彼を抱き締め、褒めそやし、マッサージする。恥ずかしいことは誰にでも起こると励まし、その証明とばかりに自分のズボンをずり落として「あらら!」と一声。それから、彼のために買ったスムージーに手を伸ばしてこう言う。「こういうのは自分から吸うのよ」
部屋から逃げ出すカビールの背中にキミーは明るく呼び掛ける。「あなたはクビだから!」
ティナ・フェイとロバート・カーロックが制作を務めるこのドラマに、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)を期待する人は観察力が足りない。テレビドラマ『30ROCK/サーティー・ロック』でも組んだ2人は、独善を批判する不遜なコメディーの達人だ。
カーロックとフェイがシーズン4の案を練り始めたのは昨年10月。同じ頃、ハービー・ワインスティーンのセクハラ・性的暴行疑惑が持ち上がった。
「キミーが知らないことがまだあるんじゃないかと、いつも考えている」。本作のストーリーについて、カーロックはそう語る。何しろキミーはカルト宗教の教祖によって、15年間も地下シェルターに閉じ込められた過去を持つ。「監禁前のキミーが知っていた世界はセクハラに極めて寛容だった」
#MeTooを反映して
キミーがセクハラ被害を受けるというアイデアもあったが、カーロックいわく「女性を食い物にする攻撃的な男」をコメディーにするのは難易度が高過ぎた。そこで脚本家チーム11人は、キミーのほうが奇妙な行動をしてはどうかと話し合った。素材としたのは女性メンバー6人の体験談だ。
「ティナがどうしてもやりたがったテーマだった」と、カーロックは話す。キミー役のケンパーにズボンをずり落とさせるべきだと主張したのもフェイだという。脚本家という立場では特定の意見を擁護する動きは避けたいが、「コメディー作品は、(反セクハラという)文化的ムーブメントに触れるべきだ」。
彼自身の意見もある。「職場で他人にセクハラをすべきでないというのが、私たちの考えだ。過激な主張ではないと思う」
シーズン4ではセクハラ告発の#MeTooや「タイムズ・アップ」などの運動が起きている現実を考慮したかった。第1話に込めたメッセージは、悪気がないのは明らかでもキミーの行動は正しくないということだ。
カビールがセクハラ被害を届け出た後、キミーがしょっちゅう抱き締めてきたりするのが不快だと、ほかの従業員も言いだす。キミーのルームメイトのタイタス(タイタス・バージェス)が説くように「問題は相手がどう感じるか」だ。
もう職場で楽しむことはしないとキミーは決意するが、ここには#MeToo登場後の今、セクハラと思われたら困るから女性の同僚に挨拶もできないという男性たちの声が反映されている。だがタイタスはキミーに言う。守るべき一線を尊重しつつ仕事を楽しむ方法はある、と。
共感を込めた視点でセクハラの加害者を描くことに不安はあったのか。「私たちのスタッフはこの手のテーマを話し合うことを大切にする。それに過去のエピソードに比べれば、それほど物議を醸すような話でもない」と、カーロックは言う。