権力者のセクハラ発言にどう応じる? グラミー賞ノミネートのティファニー・ハディッシュからの助言
このケースで、ティファニーはあきれて相手を冷たくあしらう。そして、いつかスターになることで相手を見返そうと決意する。しかし別のケースでは自分よりも目上のコメディアンに真っ向から食ってかかり、そのせいで何年も仕事を干されるといった辛酸もなめている。そんな逆境にあっても、いつか自分の時代が来ると信じて彼女はひたすら芸に邁進した。
男と寝ることでコメディーの技が磨かれると思う? 自分の足で立って、自分で芸を磨かなきゃ。おもしろいって、見せかけだけじゃ得られないスキルなんだから。
こうしてティファニーはコメディエンヌとしてトップ女優の地位に登りつめ、権力を盾にして彼女を利用しようとした男たちを見返すことができたと自伝のなかで語っている。
「絶対に、女を使っちゃダメ」
とはいえ、力をつけたことでセクハラ男たちは黙ったのかというと、そうでもないようだ。こんどは不特定多数の一般男性からのハラスメントが絶えないのだという。E!ニュースのインタビューによると、ティファニーが久しぶりにSNSのダイレクトメールをチェックしたところ、驚くほど多数の男性器の写真が送りつけられてきていたという。ティファニーはそのときの困惑を告白したうえで、ハラスメントを仕掛ける見知らぬ男性を笑いで鮮やかに刺してみせる。
「写真集をつくればいいよね! 写真を送ってきたヤツらもそれでちょっとは慎むでしょ。てか、アレの写真送ってくるの、やめてほしいんだけど」
なんなら、一枚一枚に独自のコメントも付けるつもりだとか。しかし、かつてティファニー自身もうまく対応できなかったことがあるように、こうしたハラスメントに対して誰もが冷静かつ器用に立ち回り、切り抜けることができるわけではない。女性が深い傷を負うケースだって多々ある。だから自伝『The Last Black Unicorn』のなかで、まだ若く弱い立場にある女性たちに対して、ティファニーは強く助言している。
男たちは彼女らの足もとを見て、ほんの少しの権力を振りかざし、支配しようとする。そんなことばかりだ。わたしはいつも若手の女性コメディアンたちに、こう忠告する。「絶対に、女を使っちゃダメ。お股を閉じていれば、もっと多くのチャンスが巡ってくるから、信じて。枕営業なんてしなくても出演時間は増えていくし、仕事も増える。お股なんて開いちゃダメだから」
昨今、女性であるというだけでひどい目に遭うという不条理な事件に憤りを覚えている人も多いことだろう。そんななかで、ティファニーのメッセージは参考になるし、彼女自身のパフォーマンスによる『The Last Black Unicorn』の朗読版がグラミーにノミネートされたことは小さな希望といえるかもしれない。本書はティファニー・ハディッシュという不当に虐げられる経験をしてきた一女性の自伝というかたちをした、唾棄すべきハラスメントに対するすべての女性たちからのアンチテーゼだからだ。
注目のグラミー賞発表はいよいよ2月10日(日本時間11日)に迫っている。
『すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説
世界をごきげんにする女のメモワール』
ティファニー・ハディッシュ 著 大島さや 訳
CCCメディアハウス