アメリカなき世界に迫る混沌の時代【前編】
一方、世界がアメリカに愛想を尽かし始めた面もある。最大の原因は、元CIA職員のエドワード・スノーデンが暴露した米国家安全保障局(NSA)の監視活動だ。
人々の通信を監視し、行動や居場所を追跡するNSAのスパイ活動は、多くの人々の想像をはるかに超えるレベルだった。とりわけ深刻なダメージをもたらしたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめ同盟国の指導者たちの通信まで傍受していた事実だ。これによって、ただでさえ低下していたアメリカへの信頼は一段と傷つき、そもそも米政府を信頼していいのかという疑問まで浮上している。
では、既存の国際関係が揺らぎ、アメリカが指導的役割を果たさなくなったら、世界にどのような影響が生じるのか。アメリカがリーダーでなくなった世界とはどんな世界なのだろう。
日中対立が深刻な火種に
そこに待ち受けるのは、対立が絶えない恐ろしい世界、無秩序と混乱が広がる世界だ。現時点でアメリカに代わって国際秩序を守り、歯止めとなれる国は存在しない。どの大国も政治的意思や軍事力、経済的影響力の面でアメリカの抜けた穴を埋めることはできない。その結果、世界は複数の国が覇権を争いつつ、どの国もトップに立てない混乱状態に陥るだろう。アメリカなき世界では、アメリカに向けられていた世界の怒りは強い不安感に取って代わられる。
中国に日本、ロシア、ブラジル、イランそしてサウジアラビア。こうした各地域の有力国は、支配的な地位を得たい野心を隠そうとしないだろう。トルコやインドのような新興国は独自の道を歩もうとし、その邪魔をする国々を相手に危険な行動に出るかもしれない。
中東はエジプトやサウジアラビア、イスラエルにおける予期せぬ事態の暴発に見舞われる恐れがある。中国やロシアの独裁政権は遠く離れた独裁国家の後ろ盾となり、民衆運動の弾圧に手を貸すかもしれない。
南シナ海での領有権争いは収拾がつかなくなる可能性がある。アメリカのアジアにおける軍備削減につけ込んだ北朝鮮が何をするかは予測がつかない。
こうしたシナリオの一部はまったくの仮説でもない。成長の続くトルコは、近隣地域でこれまで以上に大きな役割を果たすことを熱望。イスラム色の強い同国のエルドアン政権はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相や、軍主導のエジプト暫定政権との対立を強めている。
アメリカがシリア内戦に介入しないことに憤慨するサウジアラビアは13年10月、国連安全保障理事会の非常任理事国への就任を辞退した。思わぬ事態だが、アメリカと意見が異なるなら独自の道を進むしかないのだろう。
(4月23日掲載の「アメリカなき世界に迫る混沌の時代【後編】」に続く)
[2013年12月31日号掲載]