最新記事

収容所

グアンタナモというオバマの袋小路

金はかかるがテロ対策にはならずアメリカの威信を傷つけるだけの収容所を閉鎖できない事情

2013年5月16日(木)15時45分
ダニエル・クレイドマン(ワシントン)

厄介物 悪名高い収容所の閉鎖に向け妙案はあるのか? Reuters

 09年の政権発足時から、キューバのグアンタナモ米海軍基地にあるテロ容疑者収容所の閉鎖を目指しているオバマ大統領。長引く拘束や待遇などに抗議して100人もの収容者がハンガーストライキを続けるなか、先週の記者会見で真情を吐露した。

「カネが掛かり、何の効果もない。アメリカの国際的立場を傷つけている」。さらに「過激派の人材募集の道具」になっていると指摘し、これまでは議会に妨害されてきたが「閉鎖にあらためて取り組む」と約束した。

 しかし、12年来のこじれた問題を解決するために、一体どんな選択肢があるのか?

 そもそも、議会の承認を必要としない方法はある。現在収容中の166人(オバマ就任時は270人だった)のうち86人は、米政府により本国送還が許可されている。議会は彼らの身柄移送を禁じたが、最新の国防権限法では抜け穴が用意されている。本国送還はアメリカの国家安全保障の役に立つと国防長官が認定すればいいのだ。

 危険をはらむ行為ではある。送還後に元収容者が反米武装闘争を起こせば、オバマ政権の大失態になる。だがジョン・ブレナンCIA長官に言わせれば、国内の刑務所でも囚人は日々釈放されており、そうした危険は常に伴うものだ。

 難点が1つある。86人のうち56人がイエメン人で、その多くが潜在的なテロリストとみられる。オバマは10年に彼らの本国送還を禁じた。イエメンではアルカイダが暗躍し、弱体化した政府が多数の元収容者を監視できると思えなかったからだ。

 オバマはこの禁止措置を撤回しなければならない。それにはサウジアラビアで奏功したような過激派更生プログラムの実施など、イエメン政府に協力する施策が必要となるだろう。

 そのほか特別軍事法廷で裁かれる予定の収容者もいるが、46人は訴追も送還も釈放もできないとの判断が下されている。拷問があったため裁判ができない、危険人物だが証拠不十分といったケースだ。オバマはそうした収容者たちを米本土で収監したいと考えていた。だが議会は受け入れ先になるのを拒む地元への配慮からそれも阻止した。

 グアンタナモ閉鎖を新たに誓ったオバマには、議会の説得が何より重要になってくる。1期目にできなかったことを今回はどう実現するのか。じっくりお手並みを拝見しよう。

[2013年5月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中