「外交」で復活した悪童ロッドマン
NBA引退後は世間に忘れられていた男が北朝鮮を電撃訪問して金正恩と仲良く談笑──再び世界を騒がせているバッドボーイの波乱の人生
軽率? 2月28日、平壌で金正恩(左)と一緒にバスケットボールの試合を観戦したロッドマン KCNA-Reuters
デニス・ロッドマンが国際政治の歴史を変える日が来るなんて、誰が想像しただろう?
髪を炎のように赤く染め、ピアスをじゃらじゃら着けていたNBA(全米プロバスケットボール協会)の悪童。NBA史上屈指のリバウンドの名手。試合中にシカゴ・ブルズのスコッティ・ピッペンを観客席まで突き飛ばし、カメラマンの股間に蹴りを入れた乱暴者。わが子を放り出し、自伝のサイン会にウエディングドレスで登場した男。
型破りの行動で物議を醸してきた男ではある。だが、2月末に平壌で北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記と談笑する映像がテレビで流れたときは、誰もが唖然とした(帰国後に金を「いい奴」と呼び、さらにひんしゅくを買った)。
このグローバル化と均質化の時代にも、超個性派の出る幕はまだ残されていたようだ。ロッドマンがテレビ画面の向こう側に帰ってきた──デトロイト・ピストンズとシカゴ・ブルズで5度の優勝を経験し、よくも悪くも注目を浴び続けた14年の現役生活を終えた後は、私たちの視界からほぼ消えていた男が。
今回の北朝鮮訪問を計画したのは、ニューヨークのバイス・メディアという会社だ。ケーブルテレビのドキュメンタリー番組の企画の一環だった。恐らくロッドマン自身は、北朝鮮のおぞましい人権侵害の現実をまったく知らなかったのだろう。
それでも最近の大半のアスリートと違い、物議を醸す問題で明確な立場を取ったのは、いかにもロッドマンらしい。
とはいえロッドマンを90年代から知るエスクァイア誌のスコット・ラーブが言うように、彼は何百人ものジャーナリストや政治家やビジネス関係者が果たせなかったことをやってのけた。ロッドマンと撮影班は、(分かっている範囲では)アメリカ人として初めて、権力を継承した後の金正恩に面会したのだ。
自殺を本気で考えた夜
確かに、軽率な行動だったかもしれない。しかし現代社会では、重要なイベントはほぼことごとく念入りに準備され、シナリオがあらかじめ決まっている。それでは、あまりに退屈過ぎないだろうか。
これまでの波瀾万丈の生涯を考えると、いまロッドマンが生きていて、(恐らく一瞬だけとはいえ)こうして再びスポットライトを浴びること自体が奇跡のようにも思える。
「俺は死をいつも夢見ている」と、ロッドマンは96年、ローリングストーン誌のクリス・ヒース記者に述べている。「あらゆる死に方について考えてみた。俺が夢見るのは、誰かに心臓を引き抜かれること。列車にひき殺されたい」
当時ロッドマンはシカゴ・ブルズでプレーしていて、年俸は900万ドル。人気と不人気の両方の絶頂にあり、それを利用することが誰よりも得意だった。そんな男が死を語るというのは、皮肉なものだ。
それ以降、今日に至るまでの17年間は、順風とは言い難かった。2000年3月には、わずか12試合に出場しただけでダラス・マーベリックスを自由契約になる。38歳、現役生活の静かな幕引きだった。