反ウォール街デモを「予見」していた新刊
ネットメディアの「女王」、アリアナ・ハフィントンがつづった警鐘と希望の書がついに邦訳
崖っぷち アメリカの第三世界化を食い止めるには、自ら声を上げるべきだとハフィントンは言う(ニューヨークの反格差社会デモ、10月17日) Shannon Stapleton-Reuters
「ウォール街を占拠せよ!」。広がる一方の経済格差、改善しない雇用情勢。そんな状況のなかで噴き出した反格差社会デモは、発生から2カ月目に突入した。ニューヨークを震源地として世界80カ国以上に飛び火し、勢いが衰える気配はなお見えない。
この混乱を1年以上前に予見していたともいえる本の邦訳が、このほど出版された。アリアナ・ハフィントンが書いた『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に墜ちる日』(森田浩之訳、阪急コミュニケーションズ刊)である。急成長を遂げたネットメディア「ハフィントン・ポスト」の編集責任者を務める彼女は、アメリカは「第三世界」に転落する崖っぷちにいると、強烈な警告を発している。
ハフィントンのいう第三世界とは、富める者とそれ以外の国民しかいない国、すなわち中流層が消え去った国だ。
「アメリカの中流層は、かつてのリーマン・ブラザーズと同じ道を歩もうとしている」と、彼女は書いている。中流層はアメリカを支える「背骨」のような存在だ。ところが、拡大するばかりの社会格差と、とどまるところを知らない政財界の癒着によって、中流という階級そのものがアメリカから消えようとしているという。
だから声をあげるべきだと、「ネットメディアの女王」の異名をとるハフィントンは本書に書いた。その声は今、世界を覆う空前絶後のデモという形で現実のものになった。しかし、彼女のメッセージはそれだけではない。本当の解決策をもたらせるのは私たちの指導者ではなく、指導者を動かす私たちのはずなのだ......。
アメリカと世界の現状に警鐘を鳴らし、同時に新たな可能性を見いだそうとする新刊の核心部分を抜粋で紹介する。
「第三世界アメリカ」
ざらりとした嫌な響きの言葉だ。アメリカ人がこの国について抱いている「地球上で最も偉大な国」というイメージの対極にある。アメリカは最も豊かで、最も力強い国ではなかったか。最も寛容で、最も気高い国ではないのか。
だとすれば、「第三世界アメリカ」という言葉は何を意味するのだろう。
私にとってこの言葉は警告だ。訪れてはならない未来の姿だ。このフレーズは「アメリカン・ドリーム(アメリカの夢)」の裏面を示している。私たち自身がつくり出す「アメリカン・ナイトメア(アメリカの悪夢)」だ。
いま軌道を修正しなければ、この国の輝かしい歴史に反して、アメリカは本当に第三世界の国になりかねない。
そこには階級が二つしかない。富める者とその他大勢だ。歴史に取り残された場所。外敵ではなく、国内企業の強欲と政治指導者の無視に蹂躙された場所。それが第三世界だ。