米英に迫る「熟年離婚」の危機
オバマ大統領と折り合いの悪いキャメロンが英首相に就任すれば、長年の「特別な関係」は一気に冷え込みかねない
犬猿の仲に? 過去の絆より合理的な判断を優先するオバマにとってキャメロンの掲げる政策は受け入れがたい(2008年7月26日、ロンドン) Jim Young-Reuters
10月6日、英フィナンシャル・タイムズ紙に洞察力に富んだ記事が掲載された。テーマは、英保守党を率いるデービッド・キャメロン党首の反欧州志向によって米英関係が冷え込む可能性について。フィリップ・スティーブンズ記者は「(米大統領のバラク・)オバマは同盟国に対して感情に流されない判断をする」と書いた。
私は、それ以上だと思う。オバマはほとんどの問題について感傷を排した対応をしている。ある米政府高官は、オバマにはビル・クリントン前大統領と並ぶ「統合的な知性」があると好意的に評した。また、自分が接してきた歴代大統領のなかでも「際立ってクールな人物で、合理性と冷静な判断を重視している」とも語った。
オバマの冷静な理性は、アメリカの国際関係全般に影響を及ぼしている。なかでも大きく変わりつつあるのは、諸外国との関係における歴史の役割だ。
もちろんオバマも学術的な意味では相手国との歴史的な経緯を認識している。だが、相手が友好国であれ敵国であれ、従来の付き合い方を重視するつもりはないようだ。
オバマはイギリスとアメリカの兵士が肩を並べて戦った第二次大戦中の感動的なシーンについて語ることがあるが、それを実際に体験したことはない。ベトナム戦争は彼が高校に入学する前に終結していたし、ロースクールを卒業してキャリアをスタートさせた頃には冷戦も終わっていた。
オバマは国際政治界の新人類
第二次大戦に出征した汎大西洋主義者の父をもつ、15歳年上のジョージ・W・ブッシュ前大統領とは対照的だ。オバマは前任者らとはまったく違う種類の生き物なのだ。
彼が同盟関係に無関心という意味ではない。NATO(北大西洋条約機構)や古くからの友好国の重要性を理解していないという意味でもない。
それでも、オバマはかつての敵や現在の敵に関与政策を取り、G8(主要8カ国)の代わりにG20(20カ国・地域)の首脳サミットで重要議題に署名し、従来と違うイスラエルとの関係を模索し、カイロでイスラム社会に協調を呼びかける演説をし、就任早々にアフリカを訪問している。
こうした行動はどれも、前任者たちのつくってきた「型」にとらわれないという決意の表れだ。実際、今のアメリカは、イギリスやドイツよりフランスの指導者と良好な関係を築いているといわれるほどだ。
フィナンシャル・タイムズ紙でスティーブンズが的確に指摘したように、キャメロンが予想どおりイギリスの首相に就任すれば、この傾向は一段と顕著になるだろう。
キャメロンとオバマの関係構築は出だしでつまづいている。二人のイデオロギーは正反対だ。キャメロンが欧州連合(EU)の新たな基本条約であるリスボン条約を軽視すれば、状況は一段とこじれ、イギリスはオバマととまったく違う世界観を追求することになるだろう。