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テロ容疑者にCIAが「死の恐怖」戦術

2009年8月27日(木)16時38分
マーク・ホーゼンボール、マイケル・イジコフ(ワシントン支局)

 長い間、機密扱いにされてきたCIA(米中央情報局)の内部報告書が、このほどようやく公表される。これによって、CIAが9・11テロの容疑者に「死の恐怖」を与えて情報を引き出そうとしたことが明らかになりそうだ。

 情報筋によると、アルカイダ幹部で00年の米駆逐艦コールの爆破事件を指揮したとされるアブド・アルラヒム・アル・ナシリは、尋問中に銃と電気ドリルで脅された。尋問担当者は本気だと思わせるために銃を振り回し、電気ドリルのスイッチを入れてナシリに近づけたらしい。

 別のケースでは、容疑者の隣の部屋で銃を発砲し、他の収容者が殺されたと思わせようとしたという。「怯えさせて情報を聞き出すためだった」と、情報提供者の1人は言う。連邦法は拷問を禁じており、拘束中の容疑者を死の恐怖で脅すことも違法とされている。

 CIAの内部報告書が完成したのは04年5月。ちょうどCIAが過酷な尋問を控え始めた頃だ。過酷な尋問手法をめぐる条件を定めた司法省の内部メモは機密扱いとされていたが、今年3月にオバマ政権がCIAとブッシュ前政権関係者の猛反対を押し切って公表した。しかし死の恐怖を与えて容疑者を脅迫していたことは、こうしたメモにもなかった新事実だ。

 報告書は完成直後に司法省と上下両院の情報特別委員長へ送られたが、委員全員の手に渡ったのは06年9月。ブッシュ大統領がCIAによる拘束・尋問を公に認め、テロ容疑者の身柄をキューバのグアンタナモ米海軍基地に集めるよう指示した頃だ。

 ブッシュ政権下で、CIA幹部は報告書を表ざたにしないよう強く働き掛けた。公表すればアメリカの威信が傷つき、CIAの士気も低下し、アメリカの尋問戦術についてテロリストにヒントを与えるというのが彼らの言い分だった。

[2009年9月 2日号掲載]

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