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米軍事オバマを悩ますグアンタナモの闇
キューバの米軍基地に収容されたテロ容疑者は、「過酷な尋問」だけでなく拷問を受けていた。ブッシュ前政権から引き継いだアメリカの犯罪をいかに裁くか
負の遺産 ブッシュ政権下で米軍による拷問が行われたキューバのグアンタナモ基地 Reuters
「われわれはカフタニを拷問した」。米国防総省高官が先週そう公言したことで、オバマ新政権はテロ容疑者に対する尋問手法の調査を求める圧力にさらされている。
1月14日付のワシントン・ポスト紙によると、この高官はキューバのグアンタナモ米海軍基地に設置された特別軍事法廷の訴追手続きを審査する立場のスーザン・J・クロフォード。米軍が同基地に拘束しているモハメド・アル・カフタニに用いた尋問手法は「拷問の法的定義にあてはまる」と、クロフォードは同紙のボブ・ウッドワードに語った。
バラク・オバマ新大統領は11日に行われたABCテレビとのインタビューで、ブッシュ政権時代のテロ容疑者の取り扱いについて大がかりな犯罪捜査を開始することには消極的な姿勢を示した。「今は前進することに焦点を当てるべきだと感じている。明らかな違法行為を見逃すということではないが、私は前に進みたい」
だがクロフォードの発言によって、新政権は嫌でも過去を振り返ることになるかもしれない。特別軍事法廷を開くかどうかを決定する立場のクロフォードには、カフタニの処遇に関する非公開の内部文書を閲覧する権限がある。
「次は新政権の司法省が事実を調べ、テロ容疑者の虐待に関する高官の責任を精査する段階に進むだろう」と、上院軍事委員会のカール・レビン委員長(民主党)は本誌に語った。レビンは先日、この問題をめぐるブッシュ政権高官の責任に言及した報告書を発表したばかりだ。
クロフォードがあえて「拷問」という言葉を使ったことは、重要な法的意味をもつ可能性がある。拷問は捕虜の取り扱いを定めたジュネーブ条約などの国際法に違反するだけでなく、アメリカの国内法でも訴追可能な犯罪行為だ。
9.11容疑者に行った「攻撃的尋問」
カフタニが02年から03年にかけて受けた「きわめて攻撃的な」尋問は、米陸軍戦闘教範(フィールドマニュアル)では認められていないが、当時のドナルド・ラムズフェルド国防長官が個人的に承認したものだった。具体的には、眠らせない、無理やり裸にする、低温下に放置する、番犬をけしかける、長時間隔離して孤立させるといった行為が含まれる。
国防総省が05年に公表した報告書によると、さらにカフタニは縄につながれて犬の「芸」を強制され、女性尋問担当者の前に裸で立たされ、ブラジャーの着用を強制され、女性用の下着を頭からかぶらされた。
この報告書はカフタニが「屈辱的なひどい」扱いを受けたことを認めたが、法律違反はなかったと結論づけた。報告書の作成責任者を務めたバンツ・クラドック将軍は、当時グアンタナモ基地の司令官だったジェフリー・ミラー少将への懲戒請求を却下している。
オバマはクロフォードの発言を無視することはできないと、米自由人権協会(ACLU)のアンソニー・ロメロ事務局長は指摘する。「法律違反があったと認めているのだから、過去を振り返るしかない。検察官を任命する必要がある。『当時は当時、今は今』ですませるわけにはいかない」
クロフォードはワシントン・ポストの取材に対し、カフタニへの拷問が発覚したため、01年の9・11テロ事件に関与した容疑での訴追を認めなかったと述べている(事件直前の01年8月にアメリカ入国を拒否されたカフタニについて、9・11テロの独立調査委員会は「20人目の乗っ取り犯」になるはずだったと結論づけている)。
さらにクロフォードは、02年にカフタニは拷問を受けて心拍数が極端に下がり、命の危険にさらされた状態で入院治療を受けたとも話している。この発言も、05年の国防総省の報告書と矛盾しているようにみえる。報告書には、03年1月に行われた健康診断で「特記すべき症状は見つからなかった」と書かれている。
最も過酷とされる「水責め」の手法
一方、国防総省のジェフ・モレル報道官は、カフタニの尋問は合法だったという従来の主張を繰り返した。「被拘束者の取り扱いについては、これまでに10数回の調査を実施した。20人目の乗っ取り犯とされるモハメド・アル・カフタニに対する尋問に焦点を絞った調査も行われた。その結果、グアンタナモで用いられた尋問手法は、02年にカフタニが受けた特殊な手法も含め、すべて合法という結論が出ている」
ただし、モレルはこうつけ加えることも忘れなかった。「その後、当省は尋問と拘束の方針や手続きをより自制的なものに変えた。カフタニが受けた攻撃的な尋問手法の一部は、当時は許容範囲内だったが、改訂版のフィールドマニュアルでは禁止されている」
ところでカフタニは、最も過酷とされる「水責め」は一度も受けていない。この尋問手法には、たとえば鼻と口から水を流し込み、呼吸が苦しくなった容疑者があえいだ瞬間、水が肺に入るようにすることなどが含まれる。
水責めの対象となったテロ容疑者は、いずれもCIA(米中央情報局)の拘束下にあったアブ・ズベイダ、ハリド・シェイク・モハメド、アブド・アルラヒム・アル・ナシリの3人だ。
クロフォードはワシントン・ポストの取材に対し、ハリド・シェイク・モハメドの尋問中に「拷問が行われたとみている」と語っている。特別軍事法廷の被告側弁護人に言わせれば、クロフォードがCIAの拘束下にあった3人の内部文書を閲覧できなかったことを示唆する発言だ。
3人が外国にあるCIAの秘密収容施設からグアンタナモに移送されたのは06年9月。クロフォードは移送後に行われたFBI(米連邦捜査局)の供述調書に基づき、被告の訴追を認める決定を下したようだ(アブ・ズベイダは訴追されていない)。
独立調査機関の設立には及び腰?
クロフォードの発言を受けて、ナシリの弁護人を務めるスティーブン・レイズ海軍少佐は、ナシリもカフタニと同様に拷問を受けていたとして訴追の取り消しを正式に申し立てた。「水責めは、それだけで拷問に相当する」と、レイズはクロフォードあてのメモで主張している。
下院司法委員会は13日、正式な裁判を受けていない外国人の拘束、尋問時の虐待行為、捜査令状なしの通話の盗聴など、ブッシュ政権の問題行為を列挙した報告書を公表した。すでにジョン・コンヤーズ委員長は民主党の同僚議員数人とともに、ブッシュ政権の権力乱用疑惑を調査するため、9・11テロの独立調査委員会をモデルにした調査機関を発足させる法案の提出に踏み切った。
だがオバマも民主党の議会指導部も、現段階ではこうした調査機関の設立に前向きではない。新政権の意向をよく知る2人の情報筋によると、オバマとその周辺は今のところ、情報機関に対する大がかりな調査は組織の士気を損ない、情報収集に支障が出かねないという理由で消極的な姿勢を見せているという。
それでも情報筋の一人は、もし違法行為の証拠が見つかった場合、新政権が調査を避けることはまずないとも語っている。
今回のクロフォードの発言は、まちがいなくこの基準を満たしているようにみえる。
[2009年1月28日号掲載]