最新記事
BOOKS

強力な視覚体験に支配される「ミラサォン」とは何か?...アヤワスカの科学的研究

2024年12月14日(土)09時50分
シダルタ・リベイロ(神経科学者)
アヤワスカ

Dana Toerien-shutterstock

<先住民やアフリカの信仰とキリスト教との宗教的混交と組み合わさってきた、アヤワスカの摂取と、それに続く浄化のダイナミクス。神経科学者による「夢」に関する科学的研究について>

夢とは何か? 夢を見ることを人類はどのように利用し、どのように人類を変えてきたのか――。

著名な神経科学者であるシダルタ・リベイロ博士が長年の研究を結集した、世界的ベストセラー『夢は人類をどう変えてきたのか──夢の歴史と科学』(作品社)より第7章「夢の生化学」より一部抜粋。

【動画】ドキュメンタリー「アヤワスカの力」 を見る


 
◇ ◇ ◇

N,N-DMT[編集部注:自然界に発生する幻覚剤であるジメチルトリプタミン]の調合薬として、科学的な観点から最もよく研究されているものはアヤワスカだ。

アヤワスカとはケチュア語で「精霊のつる」、あるいは「死者のつる」を意味する。N,N-DMT以外にも、アヤワスカには神経伝達物質を分解する酵素の阻害物質が含まれており、これがセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンのレベルを上昇させる。

別名ヤスカ、ダイミ、ヤヘ、あるいは単にヴェジェタル(植物)とも呼ばれるアヤワスカは、アマゾンやオリノコ盆地の先住民グループや、この薬によってもたらされる啓示的体験の儀式を世界中に広めている混交宗教によって、治療や占いの目的で使用されている。

アヤワスカの効果の中でも特に典型的なものの1つ(ただし一般的なものではない)に、視覚と行動をともなう状態である「ミラサォン」がある。

ミラサォンは強力な視覚体験に支配されており、本人は目を閉じたまま、見ているものを能動的に探求する。

この状態で見えるイメージは、現実と同じくらい鮮明でありながらも幻想的で、象徴性にあふれ、動物、植物、動物の特徴を持つ神話的クリーチャー、祖先の霊、助言や治癒を与えてくれる神々の存在が、深淵さと鮮やかさを持って色彩豊かに描き出される。

たとえ鮮明なビジョンが起こらない場合でも、アヤワスカの摂取は精神的あるいは霊的な浄化を引き起こす。この過程には、過去の行動を振り返ったり、厳しく自己批判をしたりすることが含まれる。

精神的な浄化は、しばしば嘔吐や下痢といった生理的な浄化と並行して起こり(またはそれによって引き起こされ)、その後、恍惚とした贖罪の感覚が訪れる。ほぼすべてのセロトニン受容体が消化管にあることを考えれば、こうした効果は驚くには当たらないだろう。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中