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掛け軸、巻き物...日本の紙文化財を守る素材「新古糊」の凄さ

2024年3月28日(木)11時30分
一ノ瀬伸

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林原・新古糊

そして、8年の年月を経てついに「新古糊」発表に至る。古糊を科学的に分析したところ、熟成過程で微生物の酵素の関与が推察されたため、小麦でんぷんに酵素の一種のアミラーゼを作用させて条件を整えた。これにより、約2週間という短期間で古糊と同様の性質を持つ古糊様多糖を製造することに成功したのだ。

「100年後の修復を担保するために、古糊と同じ機能を持つことはもちろん、構造的に限りなく同じものを作るというアプローチで開発しました」と担当者が話すとおり、福山大学(広島県)と共同で行った比較研究では古糊と新古糊は「ほぼ同一」との結果が得られた。

修復業者やアカデミア、海外の博物館から需要

実際、古糊を熟知する修復師からも好評で、古糊と比較しても「感触に違和感がない」「臭いまで似ていて驚いた」「粒子が均一でより使いやすい」などと評価されているという。

新古糊の発売から14年。修復業者やアカデミア、さらには海外の博物館などへの販売実績があり、繰り返し買い求める顧客もいる。販売数量は多くないものの増加傾向にあり、リピーターの存在はそのまま製品の価値を証明していると言っても過言ではない。

「新古糊の物性を生かした工業材料や食品、化粧品などへの横展開や、でんぷんから新古糊を作る技術を用いた新しい製品の創生も考えられます」

【関連記事】自然の力を活かす林原、トレハロースで世界のフードロス削減と農業課題の解決に貢献へ

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