脳の信号を自然な会話に...失われた言葉がAI技術でよみがえる日
AI Helps Paralyzed Woman Speak
脳神経外科の研究に被験者として参加しているアン・ジョンソン NOAH BERGER
<話をする機能を失った人の脳の信号を読み取り、アバターで声と表情を再現する、画期的な研究が進行中>
全身麻痺で発話能力を失った女性が、AI(人工知能)システムのおかげで18年ぶりに言葉を取り戻した。
【動画】脳の信号を自然な会話に...研究に被験者として参加しているアン・ジョンソン
患者の名はアン・ジョンソン。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)脳神経外科の研究に被験者として参加している。
8月23日付のネイチャー誌電子版に掲載された論文によると、このシステムは患者の脳に埋め込んだ電極をコンピューターに接続し、最先端のAIソフトを駆使して脳神経の発する信号を解読し言葉に変換。そして画面上のデジタルアバターの口と表情を動かすことで、極めて自然なコミュニケーションを可能にする。
UCSFの科学者たちは、このシステムがいつか米食品医薬品局(FDA)の認可を得て実用化されることを期待している。そうすれば、アンのように身体的な発話能力を失った患者もほぼリアルタイムで、より自然なコミュニケーションが可能になる。
「私たちの目標は、他人と話をするための最も自然な方法を回復することだ」。UCSF脳神経外科の主任教授で、この研究を主導しているエドワード・チャン医師はそう述べる。「今回の研究によって、私たちは患者にとっての真のソリューションに大きく近づいたことになる」
アンは18年前、30歳の時に脳卒中を起こし、重度の全身麻痺が残った。筋肉を全く動かせなくなり、当初は自力で呼吸することもできなかったという。
「一夜にして、全てが奪われた」と、頭の小さな動きを感知しパソコンの画面に文字を表示する装置の助けを借りてアンは書いた。「私には生後13カ月の娘と夫の8歳の連れ子がいて、わずか26カ月の結婚生活があった」
「閉じ込め症候群(LIS)。それは文字どおりの症状だ」と、アンは装置を使って語った。「意識も感覚も完全で、五感の全てが正常に働いているのに、筋肉が動かない肉体に閉じ込められてしまう」
その後数年間、アンは苦しいリハビリに耐え、再び自分で呼吸ができるようになり、首を動かせるようになった。今では顔の筋肉を微妙に動かして、泣いたり笑ったりもできる。だが、どれだけリハビリに励んでも言葉を発することはできなかった。
脳の信号を自然な会話に
アンは2021年にチャンらの研究を知った。それはパンチョという名の、やはり脳卒中で半身不随になった男性についての論文だった。
チャンらは、パンチョの脳神経が発する複雑な信号を文字化することに挑戦した。そのためにはパンチョが実際に脳内で発話を試み、その際の脳波の変化をシステム側で言葉として認識し、登録するプロセスが必要だった。