最新記事
AI

AI画像が世界的コンテストで入賞...作者が気付いた、人間としてのアーティストの重要性

“I Won With AI Photos”

2023年5月25日(木)12時50分
ボリス・エルダグセン(写真メディアアーティスト)
ボリス・エルダグセン

ボリス・エルダグセン REUTERS/Fabrizio Bensch

<AIを使ったアート制作の「監督」は人間であり唯一無二の存在である私だ>

私が1年前にAI(人工知能)を使い始めた頃は、1枚の画像を生成するのに20分かかった。今ではクリックしたら5秒でできる。この1年でオンラインツールの数は一気に増えた。ビッグバンが起きて、さらにノンストップで加速しているかのようだ。

【画像】AI生成画像『The Electrician』が世界的コンテストで入賞

1989年から写真を始め、2000年からメディアアーティストとして写真を撮り続けている私は、AI画像ジェネレーターが大好きだ。AIを使うと、物質的にも環境的にもあらゆる制約から解放される。

AIはアクセラレーターとして、私の経験を発展させる。監督は私だ。私が作品の方向性を決め、選択をする。

写真を撮るとき、私は常に偶然の要素を大切にする。しかし、AI画像ジェネレーターの提案にも同じような驚きがある。テキストプロンプト(文章)を使った画像生成で私は道案内役を務めながら、AIの意外な提案に対し、時には「これをもっとやろう」「これは控えめにしよう」と言葉で応答する。

アートの世界でもっとAIを活用しようと主張してきた私は、写真コンテストはAIを使った応募の可能性に気が付いているのだろうかと思った。そして、自らAIで生成した画像で「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード2023」に応募した。

私としては、ハッカーがシステムの弱点を試すような感覚だった。コンテストを悪用するつもりはなかった。AI画像について真剣に考える必要がある分野だと、問題提起をしたかったのだ。

昨年9月、私はオープンAIが開発した画像生成AI「DALL-E(ダリ)2」を使って、モノクロ作品『The Electrician(電気技師)』を作った。これは私の「偽の記憶」シリーズの1つだ。

公開討論会を提案したが

どのような画像にするかを説明するテキストプロンプトは長くて複雑になり、そこには私の知識が含まれる。

例えば、ピザの写真が欲しいなら、画像ジェネレーターにピザという単語を入力するだけでも、後はマシンがやってくれる。

しかし、そこに「ポラロイドカメラかデジタル一眼レフカメラ、あるいは監視カメラで撮ったピザの写真が欲しい」と付け加えることもできる。トマトとバジルのピザと、具体的な指定もできる。おいしそうに見える、焦げている、まずそうに見えるなど、感情的な要素もある。

ピザを特定の角度から見下ろしているのか。ピザは皿の上にあるのか、床に落ちているのか。光はどこから当たっているか。明るい色か、ビンテージ風か、夏色、それとも冬色にするか──。

実際に入賞するとは考えもしなかった(注:23年3月に一般応募クリエーティブ部門で最優秀作品に選ばれた)。だから、正式発表の前に主催者に真実を伝えた。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中