最新記事
AI

AI画像が世界的コンテストで入賞...作者が気付いた、人間としてのアーティストの重要性

“I Won With AI Photos”

2023年5月25日(木)12時50分
ボリス・エルダグセン(写真メディアアーティスト)

「私を失格にしてほかの人を選ぶこともできます。このまま私が受賞するなら、この件についてオープンに議論することを強く進言します」。さらに、写真にAIを使うべきかどうかについて、公開討論会を開くことも提案した。

この要望に対する回答はなく、授賞式に出席してくれればうれしいと言われた。私の作品がAI画像であるという事実に関して、主催者の立場も見解も説明はなかった。

受賞作品を発表するプレスリリースも、世界的に権威のあるコンテストでAI画像が初めて受賞したことには触れなかった。「AIであることは承知しており、AIの参加を歓迎します」「驚きましたが、来年は新しいカテゴリーをつくりましょう」などと言うこともできたはずだ。

感情的な質を持つ作品

主催者は淡々と事を進めたかったのだろうが、すぐに報道陣から、AIが生成した画像ではないかという疑問が出始めた。私はそれに答える文書を主催者に送ったが、公表されなかった。

AI画像であることに写真家たちが激怒していると聞いて、これは実験であり、私も主催者も既に知っていると説明しようとしたが、誰もこの話題に触れたがらなかった。結局、主催者とのやりとりは立ち消えになった。彼らはメンツを保とうとしたのだろう。

私は授賞式に出席して、話をする予定はなかったが、ステージに上がって声明を読み上げた。その後、自分のウェブサイトやソーシャルメディアに声明を掲載して、主催者に声明を添えてメールを送り、賞金はウクライナのオデーサ国際映画祭に寄付してほしいと申し出た。

翌日、私の写真と名前は主催者のサイトから削除された。以来、彼らから連絡はない。

賞が欲しくて応募したのでは決してない。受賞を辞退した自分を情けないとも思わない。アート界のためにやりたいと思ったことをしただけだ。

私は人間としてのアーティストが重要だと考えている。アーティストは自分が生み出しているものを、世界や人間の状況に結び付けなければならない。そして、私たちが指示することによってのみ、ある種の感情的な質を持ち、芸術として定義される画像を作り出すことができる。

アート作品はオープンであってこそ、人々に衝撃を与える。作品を見て何を感じ、どんな記憶が呼び起こされ、どんなことを考えるか。どうして驚愕し、どうして魅せられるのか。そんなふうに作品を見ると、自分自身について多くのことを学べるはずだ。

そのプロセスにおいて人がどこまでクリエーティブになれるかは、複雑な問題だ。AIを嫌う人の多くは、「あなたは何も創造していない」と言いたがる。

でも、私は自分がAIに取って代わられるとは恐れていない。全ての人間と同じように、私は唯一無二の組み合わせの存在だから。

試写会
カンヌ国際映画祭受賞作『聖なるイチジクの種』独占試写会 50名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中