AI画像が世界的コンテストで入賞...作者が気付いた、人間としてのアーティストの重要性
“I Won With AI Photos”
ボリス・エルダグセン REUTERS/Fabrizio Bensch
<AIを使ったアート制作の「監督」は人間であり唯一無二の存在である私だ>
私が1年前にAI(人工知能)を使い始めた頃は、1枚の画像を生成するのに20分かかった。今ではクリックしたら5秒でできる。この1年でオンラインツールの数は一気に増えた。ビッグバンが起きて、さらにノンストップで加速しているかのようだ。
【画像】AI生成画像『The Electrician』が世界的コンテストで入賞
1989年から写真を始め、2000年からメディアアーティストとして写真を撮り続けている私は、AI画像ジェネレーターが大好きだ。AIを使うと、物質的にも環境的にもあらゆる制約から解放される。
AIはアクセラレーターとして、私の経験を発展させる。監督は私だ。私が作品の方向性を決め、選択をする。
写真を撮るとき、私は常に偶然の要素を大切にする。しかし、AI画像ジェネレーターの提案にも同じような驚きがある。テキストプロンプト(文章)を使った画像生成で私は道案内役を務めながら、AIの意外な提案に対し、時には「これをもっとやろう」「これは控えめにしよう」と言葉で応答する。
アートの世界でもっとAIを活用しようと主張してきた私は、写真コンテストはAIを使った応募の可能性に気が付いているのだろうかと思った。そして、自らAIで生成した画像で「ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード2023」に応募した。
私としては、ハッカーがシステムの弱点を試すような感覚だった。コンテストを悪用するつもりはなかった。AI画像について真剣に考える必要がある分野だと、問題提起をしたかったのだ。
昨年9月、私はオープンAIが開発した画像生成AI「DALL-E(ダリ)2」を使って、モノクロ作品『The Electrician(電気技師)』を作った。これは私の「偽の記憶」シリーズの1つだ。
公開討論会を提案したが
どのような画像にするかを説明するテキストプロンプトは長くて複雑になり、そこには私の知識が含まれる。
例えば、ピザの写真が欲しいなら、画像ジェネレーターにピザという単語を入力するだけでも、後はマシンがやってくれる。
しかし、そこに「ポラロイドカメラかデジタル一眼レフカメラ、あるいは監視カメラで撮ったピザの写真が欲しい」と付け加えることもできる。トマトとバジルのピザと、具体的な指定もできる。おいしそうに見える、焦げている、まずそうに見えるなど、感情的な要素もある。
ピザを特定の角度から見下ろしているのか。ピザは皿の上にあるのか、床に落ちているのか。光はどこから当たっているか。明るい色か、ビンテージ風か、夏色、それとも冬色にするか──。
実際に入賞するとは考えもしなかった(注:23年3月に一般応募クリエーティブ部門で最優秀作品に選ばれた)。だから、正式発表の前に主催者に真実を伝えた。