アルゴリズムで環境保護──森林を守る「良心のコード」とは?
CODED THREATS
AKQAの動画で森と命の大切さを語るラオーニ COURTESY AKQA
<木々をなぎ倒す「怪物」を羽交い締めにする小さな力持ちを開発>
オーストラリア・ビクトリア州のオーガン・パイプス国立公園は、パイプオルガンのパイプそっくりな縦に無数の割れ目が入った玄武岩の岩壁がそそり立つことで知られる。この公園内のオーストラリアヒノキの古木がそびえる場所で、2台のマシンが「一騎打ち」を繰り広げることになった。1台は建設業や林業などで活躍するトヨタのスキッドステアローダー。対するは手のひらに収まる小さなシングルボードコンピューターだ。
木立の特定のエリアにローダーが接近すると、コンピューターがすかさず探知。仮想のフェンスである「ジオフェンス」を無視してローダーがエリア内に侵入すると、運転士のスマートフォンに警告メッセージを送信する。「保護エリアに入りました。退去しないとエンジンを止めます」
運転士がこれを無視して進もうとすると、今度は待ったなしの警告が流れる。
ただの脅しではない。小型コンピューターは電子リレースイッチに信号を送り、回路を切断。すると燃料ポンプの電源が切れて、ローダーはエンストを起こす。退去のためにわずかの間再び電源が入るが、運転士が警告を無視し続ければ、ローダーはエンストを繰り返す羽目に......。
結果は? コンピューターの勝ち! ローダーはすごすごと去るしかない。
実はこれ、グローバルに事業展開するイノベーション企業AKQAが2019年に公開したオープンソースのソフトウエア、その名も「コード・オブ・コンシエンス(良心のコード)」のデモンストレーションだ。
このプログラムは既にオーストラリアの鉱業や酪農地帯で導入され成果を上げている。
古木の森を保護区に指定するだけでは、違法伐採は防げない。伐採業者はしばしば境界線に気付かないふりをして保護区に侵入し、木々を切り倒すからだ。困ったことに、取り締まり当局もこうした慣行に目をつぶるケースが少なくない。
必要なのは発想の転換
その証拠にオーストラリア放送協会の21年の調査によれば、ビクトリア州が運営する林業会社ビックフォレスツは、特別保護ゾーンに指定された原産種の森林を合計で最大321ヘクタールも違法伐採していた。
ならば数学的アルゴリズムで人間の弱点を制御したらどうか。そんな発想から生まれたのがコード・オブ・コンシエンスだ。
オーストラリアの森林も危機的な状況にあるが、地球上に残された熱帯雨林の3分の1を占めるアマゾンの森林破壊はそれよりはるかに深刻だ。世界自然保護基金(WWF)の推定によると、今のペースで伐採が進めば、30年までにアマゾンの木々の27%が失われる可能性があるという。