最新記事
WeChat

TikTokより「万能アプリ」WeChatを恐れるべき理由...中国共産党の監視・検閲システムの重要な一部

You Chat We Censor

2023年3月7日(火)12時30分
セス・カプラン(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院教授)

世論誘導に利用される

中国共産党はウィーチャットのアカウント停止を武器に、アメリカの選挙にまで影響を及ぼしている。中国の現体制に批判的な中国系アメリカ人の候補者がウィーチャットを選挙活動に使えないよう、共産党がアカウント停止を指示するのだ。

現に22年のミネソタ州議会の下院選に共和党候補として出馬した中国生まれの元米陸軍兵士アレン・シェンは、反中姿勢を打ち出したために選挙戦でウィーチャットを活用できなかった。ニューハンプシャー州の連邦下院選挙の共和党予備選に出馬したリリー・タン・ウィリアムズは中国にいる親族の身の安全のためにウィーチャットでは選挙活動はおろか政治的と見なされかねない投稿も控えている。

トランプ前政権は20年に国家安全保障上のリスクを理由に国内のアプリストアにウィーチャットの提供を禁止した。今のバイデン政権は外国企業が運営するアプリのセキュリティー調査を命じたが、ウィーチャットよりもTikTokの脅威にはるかに神経をとがらせているようだ。ウィーチャット上で中国共産党のプロパガンダが飛び交っていても、中国語で書かれているために米政界や米メディアの関係者には気付かれにくい。中国語のメッセージが英語に翻訳されて、大勢のアメリカ人の目に触れることなどないと思われている節もある。

だが今やウィーチャットはユーザーの生活に不可欠なアプリにとどまらず、中国系アメリカ人、さらには一般のアメリカ人の政治意識に少なからず影響を及ぼすツールにもなっている。バイデン政権は個人情報保護の観点だけでなく、世論誘導の面からもその脅威を慎重に評価すべきだ。

本来ならアメリカで利用されるSNSのアプリは全て、個人情報の保護と言論の自由の両面でアメリカのルールにのっとったものでなければならない。米政府は主要なプラットフォームに法令遵守を徹底する必要がある。

中国政府が国外での通信を監視するのはもってのほかだし、投稿内容の検閲も看過できない。ウィーチャットの親会社テンセントがこうした問題を改善できないなら、このアプリがアメリカで禁止されても文句は言えないはずだ。

人々が自由につながり情報交換するプラットフォームを思想統制や世論操作に利用する。中国のこの横紙破りの暴挙には他の国々と連携して強固な対抗手段を取るしかない。

From Foreign Policy Magazine

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ビジネス

スイス中銀、物価安定目標の維持が今後も最重要課題=

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中