TikTokより「万能アプリ」WeChatを恐れるべき理由...中国共産党の監視・検閲システムの重要な一部
You Chat We Censor
その数は中国国内だけでも50万人から200万人といわれ、国外にも相当数いるようだ。アメリカのウィーチャットにコメントを投稿する五毛党の中には、アメリカの市民権か永住権を取得した中国系住民も多くいる。だがFBIなどの米政府機関は中国共産党による米世論操作の実態を把握しておらず、それを規制する資源もないのが実情だ。
共産党ににらまれたアカウント運営者やコンテンツ投稿者はウィーチャットから締め出される。共産党は1カ月に4回以上投稿を行う公的アカウントには中国で登録を行うよう求めている。登録するには中国に拠点を置くか(そのためには煩雑な手続きが必要だ)、中国在住者に代理人になってもらわなければならない(代理人が圧力を受けたり、逮捕されるリスクがある)。
アメリカに住む中国系のアカウント運営者は共産党から嫌がらせや検閲を受けても、中国にいる親族の身を案じて告発に踏み切れない。
ニューヨーク州に拠点を置く中国語メディア「明鏡集団」の記者、陳小平(チェン・シアオピン)はアメリカに亡命した中国人実業家、郭文貴(クオ・ウエンコイ)にインタビューした途端、中国に住む妻が失踪したという。当局による拉致を疑い、ツイッターに妻の解放を求める公開書簡を投稿すると、妻はYouTubeの匿名チャンネルに出て、誰かに言わされたのか、郭の活動を批判した。
陌上美国の運営者のリウは当局の度重なる嫌がらせでネット上での情報発信を断念した。「一個人の力では(党の宣伝)マシンにはとても太刀打ちできない」からだ。
中国政府と共産党がウィーチャットに目を付けたのは、アメリカ人ユーザーの個人情報を大量に収集するためでもあるが、それよりはるかに利用価値が大きい用途があるからだ。それは中国系アメリカ人のコミュニティーに潜入し、彼らの人脈づくりや政治活動を監視して、党の望む方向に誘導すること。
つまりウィーチャットは、中国系アメリカ人を当人が気付かないうちにアメリカにおける工作員に仕立てるという、共産党のより広範な活動に大いに役立っているのである。
オーストラリア戦略政策研究所が20年に発表した報告書はこう結論付けている。「共産党系列のメディアはウィーチャットのおかげで急成長を遂げた。ウィーチャットはアカウント登録の制限や不明瞭な検閲プロセスのために政治的なコンテンツが減り、中国系アメリカ人の政治意識は低下し、(党が)誘導・操作しやすい状態になった」