最新記事
WeChat

TikTokより「万能アプリ」WeChatを恐れるべき理由...中国共産党の監視・検閲システムの重要な一部

You Chat We Censor

2023年3月7日(火)12時30分
セス・カプラン(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院教授)

その数は中国国内だけでも50万人から200万人といわれ、国外にも相当数いるようだ。アメリカのウィーチャットにコメントを投稿する五毛党の中には、アメリカの市民権か永住権を取得した中国系住民も多くいる。だがFBIなどの米政府機関は中国共産党による米世論操作の実態を把握しておらず、それを規制する資源もないのが実情だ。

共産党ににらまれたアカウント運営者やコンテンツ投稿者はウィーチャットから締め出される。共産党は1カ月に4回以上投稿を行う公的アカウントには中国で登録を行うよう求めている。登録するには中国に拠点を置くか(そのためには煩雑な手続きが必要だ)、中国在住者に代理人になってもらわなければならない(代理人が圧力を受けたり、逮捕されるリスクがある)。

アメリカに住む中国系のアカウント運営者は共産党から嫌がらせや検閲を受けても、中国にいる親族の身を案じて告発に踏み切れない。

ニューヨーク州に拠点を置く中国語メディア「明鏡集団」の記者、陳小平(チェン・シアオピン)はアメリカに亡命した中国人実業家、郭文貴(クオ・ウエンコイ)にインタビューした途端、中国に住む妻が失踪したという。当局による拉致を疑い、ツイッターに妻の解放を求める公開書簡を投稿すると、妻はYouTubeの匿名チャンネルに出て、誰かに言わされたのか、郭の活動を批判した。

陌上美国の運営者のリウは当局の度重なる嫌がらせでネット上での情報発信を断念した。「一個人の力では(党の宣伝)マシンにはとても太刀打ちできない」からだ。

中国政府と共産党がウィーチャットに目を付けたのは、アメリカ人ユーザーの個人情報を大量に収集するためでもあるが、それよりはるかに利用価値が大きい用途があるからだ。それは中国系アメリカ人のコミュニティーに潜入し、彼らの人脈づくりや政治活動を監視して、党の望む方向に誘導すること。

つまりウィーチャットは、中国系アメリカ人を当人が気付かないうちにアメリカにおける工作員に仕立てるという、共産党のより広範な活動に大いに役立っているのである。

オーストラリア戦略政策研究所が20年に発表した報告書はこう結論付けている。「共産党系列のメディアはウィーチャットのおかげで急成長を遂げた。ウィーチャットはアカウント登録の制限や不明瞭な検閲プロセスのために政治的なコンテンツが減り、中国系アメリカ人の政治意識は低下し、(党が)誘導・操作しやすい状態になった」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中