がん患者や遺族の誰にでも起こり得る「記念日反応」とは何か
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<重い病気を宣告されたとき、大切な人を亡くしたとき――。人はそうしたつらい日の記憶も特別な日として、脳に焼き付けてしまう。時にはそれが「反応」として出てしまうこともあるという。どう対処すればいいのか>
喪失の悲しみや、つらい経験も、ハッピーな記憶と同じくらい、強い印象を残すようだ。それは日付だけでなく、そのときの場所や情景とも紐づいて、記憶をかき乱す。
しかし、それは誰にでも起こり得る「反応」。その反応に対して、事前にそうした反応があること、さらにその対処法を知っておけば、自分自身で対処できると奈良県立医科大学附属病院緩和ケアセンター長の四宮敏章は話す。
これまでに3000人以上を看取った四宮氏はこのたび、悔いなく穏やかな最期を迎えるためのヒントを『また、あちらで会いましょう――人生最期の1週間を受け入れる方法』(かんき出版)をまとめた。
本書から一部を抜粋・再編集して掲載する(この記事は抜粋第3回)。
※抜粋第1回はこちら:知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える
※抜粋第2回はこちら:「がんになって初めて、こんなに幸せ」 50代看護師は病を得て人生を切り開いた
つらい思い出は簡単には癒えない
結婚記念日、誕生日、喜寿のお祝い......。特別な記念日はハッピーなものがほとんどです。しかし、がん患者さんやそのご家族にとって、つらい特別な日もあります。
がん患者さんにとっては、がんを初めて告知された日はとてもつらい日です。遺族にとっては大事な人が亡くなった日は悲しい日です。このような特別な日にとてもつらくなったり、しんどくなったりすることを「記念日反応」といいます。アニバーサリー反応ともいいます。何年経ってもその日が来ると、つらく寂しい気持ちになる方も多いのです。
ある乳がんサバイバー(乳がん体験者)の方は、クリスマスイブの日にがんと告知されたそうです。毎年クリスマスの日になると、みんながうれしそうに買い物などをしているのを見るのがつらいと打ち明けてくれました。がんを告知されたそのときの情景をどうしても思い出してしまうからだそうです。
過去の思い出を呼び覚ますものに触れたときにも、つらくなったり、気分が悪くなったり、身体の不調を起こしたりします。
遺族の方だと、亡くなった大切な人との思い出が多い時期に、精神的に落ち込んだり、感情が不安定になったり、体調を壊したりします。
こうした記念日反応は病気ではありません。つらい体験をしたり、大切な人を失うという大きな出来事の際には、誰にも起こり得る自然な反応なのです。
緩和ケア外来と遺族外来をしていると、本当にたくさんの患者さん、ご家族が記念日反応を起こしているのを目にします。記念日反応は決して珍しいものではありません。しかも遺族のなかでは、大切な人が亡くなって、何年、何十年経っても、命日の頃に思い出して気持ちがつらくなる、という方も多くいます。こうした感情は、人間としてごく当たり前のものだと覚えておいてください。
記念日反応があることを知らないでいると、なぜこんなに急につらくなるのだろう、なんでいきなりこんなに悲しくなるのだろうと思い、どんどん落ち込んでしまう人もいるからです。
記念日反応の最大の対処法は、「記念日反応は誰でも起こりうるもの、自分にも起こるものだ」ということを知り、恐れないことなのです。