がん患者や遺族の誰にでも起こり得る「記念日反応」とは何か
記念日反応を知ることでつらさを回避できる
ある乳がん患者さんから聞いた話です。
「主治医は私に『がんの転移は、たんぽぽの綿帽子のように、ふわふわと他の臓器に飛んでくっつきます』と言いました。先生はたとえを使って、わかりやすく説明しようとしたのでしょうが、それから私はたんぽぽの綿帽子を見ると、とてもしんどくなってしまうようになった。10年以上経っているけれど、いまでも綿帽子にがんのイメージが重なって、怖くてちゃんと見られないんです」
また、ある咽頭がんの女性の方は、外来で私にこのように話してくれました。この方は、5年前、抗がん剤と放射線のつらい治療を行い、いまは完治している患者さんです。
「私はひまわりの花を見ると、いまでもとても苦しくなるの。なんでだろうと考えてみたら、ちょうど抗がん剤と放射線の治療で、吐き気とめまいに苦しんでいたとき、友だちが元気を出してと、ひまわりをたくさん病室に持ってきて飾ってくれた。それをぼーっと眺めながら闘病していたわ。それ以来、ひまわりを見ると、その当時のつらさ、苦しさを思い出してしまう。だからひまわりが見られないんです」
お二人には記念日反応のことを話し「あなただけではないですよ」とお伝えしました。すると、お二人ともその後はずいぶん楽になったとおっしゃっていました。
婚約者をがんで亡くした女性から聞いたお話です。彼が亡くなった後、彼女はうつになり、私の遺族外来で治療していました。4年が経過し、徐々に元気になり、新しい仕事もできるようになった頃のことです。
彼女は私に話してくれました。「ある朝起きたら、なぜか身体が重く感じ、気持ちがとてもつらくなりました。仕事に行ける状態ではなかったので休んでしまったんです。お昼過ぎ、『そうだ。4年前のこの日、彼ががんと診断され、泣きながら電話をかけてきたんだ』と思い出しました。そうすると、翌日には体調も戻って仕事にも行けるようになったんです」
私は彼女に、記念日反応のことをすでに伝えていたので、彼女は「これが記念日反応なんだ」と気づいたそうです。そのおかげで大きな落ち込みにならずにすんだのです。このように、記念日反応は事前に知っておくことで回避しやすくなります。
記念日反応への対処方法についてまとめておきましょう。