癌細胞を確実に攻撃する「魔法の弾丸」(米ミズーリ大学研究)
THE MAGIC BULLET FOR CANCER
アプタマーが標的を見つけるには、正常細胞と比べて、特定の癌細胞の表面にはるかに多くある異常タンパク質が目印になる。バークアグエロによると、異常タンパク質と結合したアプタマーは「癌細胞がそのタンパク質を再利用するために内部に取り込むときに、ちゃっかり『ヒッチハイク』する」。そうやって荷物もろとも細胞内に入る。
ミズーリ大学のチームは、癌細胞を攻撃する化合物の代わりに蛍光物質をアプタマーに運ばせた。アプタマーの「仕事ぶり」を可視化するためだ。
実験では、アプタマーを標的細胞と標的ではない細胞を交ぜた培養器に入れた。すると標的細胞だけが光を放ち、アプタマーが標的細胞と特異的に結合したことを確認できた。
この研究は実用化に向けた大きな一歩になったと、バークアグエロは話す。ミズーリ大学チームがアプタマーに載せた「荷物」は一般的な研究で使われるものに比べ、ざっと10倍も大きいからだ。大きな荷物を担えるということは、多様な化合物を運べることを意味する。
ただし実用化までには、まだまだやることが多いと、バークアグエロは強調する。例えば、合成アプタマーは体内に入れても安全だと言われているが、例外的なケースも報告されている。長期にわたる体への影響も、まだ分かっていない。
隠れた敵も見逃さない
ナノ粒子による薬物の運搬は複雑なプロセスを伴うものだが、アプタマーを使うアプローチはこれまでに提唱されたナノ医療に比べて、運搬プロセスの操作性が高まるという利点がある。
その点を認めながらも、バークアグエロは「1つ断っておきたいが」とクギを刺す。「忘れてはならないのは、大きな物理的障害がいくつもあることだ。例えば、隙間がなく、新生血管が少ない腫瘍の構造などだ。そのせいで、薬物やナノ粒子が癌細胞に到達できないことも多い。画期的な治療を実現するには、運搬を妨げるこうした障害もクリアしなければならない」
癌細胞にたどり着ければ、後はこっちのものだ。癌を攻撃する方法については、これまでの研究の膨大な蓄積がある。周囲の細胞を傷つけずに、癌細胞だけにダメージを与える方法も分かっている。問題は、どうやってたどり着くか。こちらはまだまだ研究の余地があると、バークアグエロは言う。
彼らの今後の課題は、薬物を載せたアプタマーがほかの組織を傷つけずに、癌細胞に確実に到達できると実証することだ。