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「PCはカウンター・カルチャーから生まれた」服部桂の考える、人間を拡張するテクノロジー

2019年12月19日(木)17時30分
Torus(トーラス)by ABEJA

服部)インターネットからコンピューター、電球、中世の甲冑まで、これまでのテクノロジーの進化の様子は、まるで生物の進化をみているかのようだ――。米WIREDの創刊編集長、ケヴィン・ケリーが生態系になぞらえた「テクニウム」という独自の概念を説明した著書は大きな反響を呼びました。


石器の方は、作り方さえ知っていれば誰もが週末に作れるような簡単な道具だ。しかしもう一方のマウスは、都市に住むインテリな人々でも簡単には作れない。(中略)作るには、それを支える何百ものテクノロジーがさらに必要になるからだ。(中略)個別のテクノロジーが相互につながって依存関係にある。そこで私はこういうテクノロジーのネットワークの総体を「テクニウム」と呼ぶことにした。(服部桂著『テクニウム』を超えて―ケヴィン・ケリーの語るカウンターカルチャーから人工知能の未来まで

服部)人類の歴史を振り返ってみると、新しいテクノロジーが発明されると、当初は反発、禁止、などの目に遭うものの、次第に改良を経て受け入れられていきました。ケリーは、テクノロジーは人が人工的に生み出した手先の技という範疇を超えた、人間や自然と共生する新しい生命圏のような宇宙の普遍的な存在であるとさえ指摘しています。

テクノロジーはどんどんと変化しますが、人間自体はあまり変わってはいません。新しいテクノロジーの出現は、人間や社会の変革をせまり、人間という存在のあり方や限界を却って明らかにしてしまうのです。たとえばAIが問いかけているのは、仕事が奪われるかどうかということより、「人間の知能や心とは何だったのか?」という基本的な問題です。IoTやビッグデータなど狭いジャンルの範囲でテクノロジーを実用性本意で論議するのではなく、世界をどう理解し付き合っていくべきかの問いかけという視点で考えたほうが、より深い論議ができるのではないかと思っています。

取材:錦光山雅子、大林寛  写真:宮下マキ 編集:川崎絵美

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服部 桂
はっとり・かつら:1951年東京都出身。78年朝日新聞社に入社。84年AT&T通信ベンチャーに出向。87年~89年にMITメディアラボ客員研究員。科学部記者や「PASO」編集長などを経て16年定年退職。関西大客員教授のほかいくつかの大学で教鞭をとる傍らジャーナリスト活動も続けている。著書に『マクルーハンはメッセージ』『人工生命の世界』『VR原論 人とテクノロジーの新しいリアル』等。訳書に『チューリング〜情報時代のパイオニア』『テクニウム』『<インターネット>の次に来るもの』など多数。

※当記事は「Torus(トーラス)by ABEJA」からの転載記事です。
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