がん治療により効果的で安全な薬を開発する、特許取得済みAIシステム
Mohammed Haneefa Nizamudeen-iStock.
<新薬開発プロセスの効率化で、少しでも早く安全な癌の治療薬を届けようとしているバイオテクノロジー企業がある。プレシジョン・メディシン(精密医療)を取り上げた本誌「AI vs. 癌」特集より>
米バイオテクノロジー企業のアトムワイズは、特許を取得した人工知能(AI)システムを使って、どの癌治療薬がより効果的で安全かを予測する手法を確立しようとしている。共同創業者でCEOのエイブラハム・ハイフェッツに本誌ノア・ミラーが聞いた。
――最終的な目標は?
より効果的で安全な薬を開発すること、そして、薬を少しでも早く患者に届けることだ。
――どのような取り組みを?
暴走して病気を進行させる細胞を軌道修正させる方法と、細胞が成長と分裂を繰り返す原因を探っている。体内のタンパク質を組立ライン上の機械に見立ててみよう。細胞の成長と分裂を管理する機械が壊れて暴走すると、細胞の成長と分裂が止まらなくなり、腫瘍ができて癌になる。そんなとき、機械に障害物を投げ込めば、機械がそれを壊すことに夢中になる(ため、細胞の異常な成長と分裂は止まる)だろう。
現在、新薬の開発には約15年と数十億ドルがかかる。適切な治療を受けられずに1日が過ぎるたびに、人間の命と健康がむしばまれていく。
――どのようにして適切な薬を見つけるのか。
どの業界でも製品の設計にコンピューターを使っている。しかし製薬業界は、試作品を1つずつ実際に作って実験しなければならない。
新しい飛行機の設計なら、まず1000種類の翼をシミュレーションする。コンピューターが「88番は低燃費で音も静かだ」と割り出し、数千通りのシミュレーションを行った上でようやく試作品を造る。
このような効率性と設計プロセスを、生物学と新薬開発の分野にも導入しようとしている。
――AIとディープラーニングを使って?
そのとおりだ。共同創業者のイジー(イズヘール・ウォーラック)と私がトロント大学の大学院で生物学の計算処理を研究していたとき、同じフロアに偶然、ジェフリー・ヒントン教授のチームがいた。ヒントンは「ディープラーニング革命の父」の1人として、コンピューター科学のノーベル賞とも言われるチューリング賞を受賞している。
彼らの研究を最も初期から見ていた私たちは、画像認識と音声認識の技術を分子の認識に応用できると考えた。