最新記事

日本人が知らないマインドフルネス

科学者が注目する「マインドフルネス」の本当の効果

2017年10月3日(火)17時05分
ゾーイ・シュランガー(ジャーナリスト)

仏教の教えに基づくヴィパッサナー瞑想のコースには大勢の人が集まる The Washington Post/Getty Images


171010cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版10月3日発売号(2017年10月10日号)は「日本人が知らないマインドフルネス」特集。企業の研修や医療現場で導入が進んでいるマインドフルネスは、本当に心と体を救うのか。日本ではまだ知られていないその効果をレポート。この特集から、最新の神経科学によるマインドフルネスの実証と記者の実体験とを交えた記事を一部抜粋して掲載する>

いま科学者が注目しているのは「マインドフルネス瞑想」だ。全米マインドフルネス研究協会によると、マインドフルネスと題名に入った論文は16年だけで667本が発表されている。80年には0本だった。

瞑想する人はしない人より、加齢による脳の灰白質の減少が少ないとする研究もある。12年のある論文によれば、長年にわたり瞑想している人は大脳皮質の脳回(俗に言う「皺」)形成が盛んで、脳の働きが活発になる。しかも瞑想歴が長いほど効果があるという。

瞑想で前頭前皮質と右前島皮質が厚くなるという報告もある。いずれも注意力や、自己や他者の気持ちを認識する能力をつかさどる部位だ。

行動パターンを変えていく

欧米を中心に人気となっているマインドフルネス瞑想だが、ベースにあるのは仏教由来のヴィパッサナー瞑想だ。ヴィパッサナーとはパーリ語の仏教用語で、大ざっぱに言えば「物事をあるがままに見る」こと。スリランカの高僧ヘーネポラ・グナラタナはかつて、ヴィパッサナーとは「物事を明晰かつ正確に見つめ、全ての構成要素を別々なものとして見据え、奥の奥まで見通して、そのものの最も根本的な真実を捉えること」だと述べている。

そして何より、ヴィパッサナー瞑想では脳に、衝動的な反応をやめて「静かにしている」ことを教える。自分は衝動的じゃないと信じている人でも、ハエが飛んできて首に止まれば無意識のうちに手が動いてしまうもの。無意識だから、やめられない。

何かよくないこと(同僚に無視されたとか)が起きるたび、何か(たばことか)が欲しくてたまらなくなるたび、私たちは考えもせずに反応してしまう。この反応が癖となり、次にまた似たようなことが起きると、私たちは同じ反応を繰り返してしまう。

ここで瞑想が役に立つ。瞑想を重ねて、衝動に負けず、脳を「静かに」させる習慣を身に付ければ、むやみな反応を抑制できるはずだ。

ニューメキシコ大学のケイティ・ウィトキエビッツ教授(心理学)は以前ワシントン大学で、ヴィパッサナー瞑想で依存症を治す研究に参加したことがある。01年のことで、被験者はシアトルの刑務所に服役中で何らかの依存症と診断された人たち。彼らの半分には10 日間の瞑想コースを、残りの半分には通常のリハビリ治療を受けさせた。そして半年後に比較してみると、瞑想組では治療組よりも依存を解消できた人が多く、精神状態も改善されていたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中