最新記事

サイエンス

人工知能、「予測」を制する者が世界を制す

2016年1月13日(水)16時30分
ケビン・メイニー

 こうした能力こそ、ブリッジウォーターやCIAのような組織が予測マシンに期待しているものだ。ライバル企業や敵国に対する優位性を築くために、予期思考を活用したいというわけだ。CIAのアンドリュー・ホールマン副長官は軍事サイト「ディフェンス・ワン」のインタビューの中で、それを「予期知能」と呼んだ。「その知能は、他を圧倒するものになる」

 予期知能を獲得するには本やソーシャルメディア、公文書、科学論文、テレビ番組、計測データなどありとあらゆるものから情報を吸収し、それを基に様々なシナリオを組み立て、それが実際に起こる可能性を割り出し、そのシナリオを常にアップデートし続けなければならない。機械学習もこのレベルになると、複雑で人間にはとても手出しできない域に入る。

「超予測者」発掘のための試合も

 皮肉なことに、成功のカギの1つは、人間がいかに予測するかコンピューターに教え込めるかどうかにかかっている。CIAでは「グッドジャッジメント(的確な判断力)」という名のプロジェクトを進めている。ペンシルベニア大学経営大学院のフィリップ・テトロック教授が率いるこのプロジェクトでは、専門家以外も広く参加者を募り、定期的に予測トーナメントを開催している。例えば「イランは核合意を守るか?」などの課題に取り組むゲームを通じ、テトロックは人より予測の確度が高い「スーパーフォーキャスター(超予測者)」たちを発掘してきた。そして彼らの能力の秘密を調べたところ、それらは識別可能で学習もできる能力だったというのだ。

 もし超予測者の特質が学習できるなら、プログラムもできる。アルゴリズムは現在の数学を超えたものかもしれないが、少なくとも何を目指せばいいかはわかる。もしCIAが超予測者のように「考える」プログラムを作れるなら、コンピューターがスーパーフォーキャスターになる日も遠くない。コンピューターが人間には想像もつかないほど大量の情報を短期間に学び、休む必要さえないことを考えると、ある時点で超予測者の予測力を超えることになるのは自明だろう。

 IBMリサーチのダーメンドラ・モーダの研究室は、コンピューターをもっと人間のように考え予測できるようにするため、もう何年も人間の脳を研究している。「今のコンピューターの構造と脳の構造はあまりに違い過ぎて、道半ばまで目標を達成できれば、それだけで世界を変えることができる」と、彼はかつて語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中