増える児童虐待、進む公的支援...なぜ支援の網からこぼれ落ちる若者がいるのか
児童養護施設や里親家庭の子どもたちを支援し続けてきた認定NPO法人ブリッジフォースマイルの代表、林恵子さん(左) 写真提供:ブリッジフォースマイル
<児童虐待の相談件数は年間20万件超。今年4月に改正児童福祉法が施行され、行政の対策は進んでいるが、まだ十分ではない>
子どもの数は減少傾向にあるが、親から虐待を受ける「児童虐待」の数は増え続けている。
児童虐待の疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数は2023年、過去最多を更新し、12万人を突破した。また、全国の児童相談所が対応した件数は2023年度、約22万件(速報値)に上り、これまた過去最多を更新している。
以前はしつけとして容認されていた暴力が、虐待と定義され認識されるようになったこと、社会の中で孤立する親が増え、子育てに困難を抱える家庭が顕在化するようになったことなどが、増加の要因とされる。国は児童虐待の予防に向けた取り組みを強化し、児童福祉法を改正。今年4月に施行された。
これにより、各市町村における「こども家庭センター」の設置など、子育て世帯に対する包括的な相談・支援体制の強化が図られている。
また、一時保護施設の環境改善や自立支援の強化も、改正児童福祉法には含まれる。これまで児童養護施設にいる子どもは原則18歳になると退所が求められ、以後は自立して生きていくことが求められていたが、こうした「18歳の壁」とよばれる年齢制限は撤廃された。
子どもたちを守っていくために、重要な法改正だ。しかし、これで十分なのか、もう課題はないのかと言えば、そうとも言い切れないようだ。
施設に入所できなかった子や「ケアリーバー」たちも支援が必要
「これまでは、児童養護施設等に入所などの『社会的養護出身者』だけだった支援対象者の枠組みが広がり、『親を頼れず困っている若者全般』が対象となった」と、認定NPO法人ブリッジフォースマイル代表、林恵子さん。
改正児童福祉法の施行は「画期的な動き」であり、「行政の支援が進みつつある」と林さんは評価している。だが、「自治体ごとの支援格差や制度のはざまで、多くの若者たちが支援の網からこぼれ落ちてしまっている現状があり、このままでは解決しない」との危惧もあるという。
林さんは20年前、大手人材派遣会社のパソナに勤務しながら、ブリッジフォースマイルを立ち上げた。児童養護施設や里親家庭から18歳で社会に出る若者たちの支援を続け、これまでに約7000人の支援に携わってきた。
その中で実感してきたのが、支援が届いていない子どもや若者たちの存在だ。
虐待経験がありながらも公的支援につながらず、児童養護施設に入所できなかった子。あるいは、児童養護施設や里親家庭を経験した「ケアリーバー」と呼ばれる子(その中には、18歳の年の3月を待たずに施設から家庭に戻った子どももいる。彼らの高校中退率は施設入所の高校生よりも高く、6割に上るという)。
年間20万件を超える虐待相談件数のうち、施設等への入所に至るのはわずか2%だと林さんは指摘する。自治体による支援格差も大きい。
きっとあなたのすぐ近くにもいる、親を頼れずに苦しんでいる子どもや若者たち。目を背けてはいけない、日本社会の現実だ。
【お知らせ】
ブリッジフォースマイルでは現在、支援格差をなくし、必要な支援をもっと広く届けるためにクラウドファンディングを実施し、支援金を募っている(7月31日まで)。
支援金の使い道は(1)緊急ショートステイの拡充、(2)支援対象者と伴走支援メニューの拡大、(3)支援の成果とコストを算出、検証し、政策提言につなげること――の3種類。
詳しくは、READYFORのページ「親を頼れず支援制度も対象外...ひとりで苦しんでいる若者を助けたい」まで。
また、7月19日には、ブリッジフォースマイルの林氏と、マインドフルネスの日本の第一人者である荻野淳也氏とのオンライン対談「自分と社会を変える気づきの魔法」も実施する。
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