2.8億円を投じても回収しきれない...長崎県対馬の海洋ごみ問題と、日本人の「海離れ」
長崎県対馬の海岸には年間3万〜4万立方メートルのごみが流れ着く(写真はクジカ浜)。一度現地を訪れた人は誰もがごみの量に圧倒され、海洋ごみ問題を自分ごととして捉えるようになる Photo: Yuichiro Hirakawa
<【海の日】九州と朝鮮半島の間に位置する対馬には、ペットボトルやポリタンクなど大量の海洋ごみが流れ着く。現地で課題解決に取り組む人々はいるが、サポートはまだ足りない。「関心」を喚起する取り組みが始まった>
各国語が入り混じったペットボトルにポリタンク、漁業用のロープに養殖いかだ。今年4月に取材で訪れた長崎県対馬の海岸は、ありとあらゆる海洋ごみで覆い尽くされていた。
日本海の入り口に位置する対馬の海岸には、海流の影響もあって海洋ごみが大量に流れ着く。風に吹き上げられたごみは、海岸から数十メートル離れた山間にまで散乱していた。遠くを見渡せば、美しい山並みと穏やかな海が広がっているのに――。
手付かずの自然と手付かずのごみが同居する、そんな衝撃的な風景に言葉を失った。漂着ごみの問題は見聞きしていたものの、実際の状況は想像をはるかに超えていた。
2023年1月から2024年1月の1年間に対馬の海に流れ着いたごみの量は、およそ3万7000立方メートル。25メートルプール約100杯分もの量である。回収すればいいではないか、と思うかもしれないがそれほど単純ではない。対馬市では、市の予算と国の補助金の計2億8000万円を投じて回収作業を行なっているが、回収できる量は全体の4分の1程度だ。
海洋ごみの現場を案内してくれたブルーオーシャン対馬の代表、川口幹子さんによれば、たとえ回収できたとしても、漂着ごみは劣化が激しいうえに有害物質が付着している可能性もあることから、リサイクルは極めて難しいのだという。それでもごみで埋め尽くされた海岸を目の当たりにすると、1つでも、2つでも漂着ごみを拾ってきれいな砂浜に戻したい、そんな思いに突き動かされる。
海洋ごみだけでなく、海藻が失われ海が砂漠化する磯焼けなど、海をめぐる課題は山積みだ。
対馬での取材で未来への希望があったとすれば、川口さんをはじめ、海の課題に向き合い、ポジティブに活動しているたくさんの人たちに出会ったこと。大好きな美しい海を次世代に残したいという人々の思いが、海を守る行動につながっていた。自分にできることは、対馬の海洋ごみの状況を伝えることだと改めて身を引き締めた。
日本人の「海離れ」と「まずは子どもたちに」の新プロジェクト
日本にとって海は世界とつながるための扉でもあり、豊かな食文化を届けてくれる大切な存在だった、はず。ところがこのところ「海離れ」が広がっているという。
日本財団が7月11日に発表した「第4回 『海と日本人』に関する意識調査」(2年に一度実施)によれば、7割が「海は大切な存在だと答えている一方、「海にとても親しみを感じる」人はわずか31%。2019年の調査に比べ13%も減少している。「この1年で一度も海を訪れていない」人は52%にのぼる。コロナ禍があったとはいえ、海との接触の少なさが海への愛着の薄さにつながっているといえそうだ。
海が遠い存在になり、関心が薄れていけば、課題解決への取り組みも進まない。なんとか海への関心を呼び起こそうと動き出したのが、公益財団法人ブルーオーシャンファンデーションと一般社団法人Think the Earthだ。
今秋の刊行をめざし、両者は共同で、海と環境をテーマにしたビジュアルブック『あおいほしのあおいうみ(仮)』を製作している。今回対馬で取材した取り組みもこの本に掲載される予定だ。