同質性を重視してきた「ものづくりの現場」に、多様性の意識を根付かせた「DEI推進室」の挑戦
DEI FOR MANUFACTURERS
DEDRAW STUDIO/GETTY IMAGES
<DEI意識が低かった業界で、一気に社内の変革を進めたパナソニックEW社。「天岩戸をこじ開けた」DEI推進室の取り組みとは>
近年、企業経営で重要視されるようになった言葉「DEI」は、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字。今後、企業価値を中長期的に向上させるには、従業員の多様性を認めて尊重し、公平な活躍機会を与えることが不可欠といわれる。だが現状、日本のDEI推進は諸外国に比べ遅れが目立ち、背景には根深い男女格差や無意識の偏見、同質性の高さがあると指摘される。
大手電機メーカー、パナソニックも例外ではない。グループ内で主に住宅、オフィス、商業施設などの電気設備を扱うエレクトリックワークス社DEI推進室長の栗山幸子は「『女性は電気的な仕事が苦手』といった思い込みからか、他業界と比べて女性の社員や管理職の割合が低い」と構造上の問題を指摘する。
同社の2023年度女性管理職比率は4.7%。背景には、製造業ならではの事情もあったという。「寸分たがわず同じ製品を製造する」ことを要求されるメーカーにとって、「同質であること」が、仕事の効率を高める重要な価値観と見なされてきたからだ。
だが、行きすぎた同質化は、グループ・シンク(集団浅慮)や品質・生産性の低下、事故にもつながり得る。そうならないためには互いの意見を遠慮なく言える心理的安全性の高い環境が大切であり、実はものづくりの現場にこそDEIが求められる。22年に新設されたDEI推進室は、変化に対する抵抗もあった社内の空気をさまざまな仕掛けで変えてきたという。
「当初、多くの従業員は、自分には関係のない、マイノリティーのための権利だと考えている印象だった。『同質的で何が悪い。現状を変えたくない』と天岩戸(あまのいわと)に閉じこもろうとする動きもあった」
このままでは浸透しないと考えた栗山はまず、DEIを分かりやすく伝えることに集中した。「(D)誰もが(E)遠慮は無しに公平に(I)一緒にイキイキ働ける」という「ベタ」なスローガンを作り、そのプロモーションのためのコンテンツには、金太郎(同質性の象徴)と宇宙人(異質性の象徴)を登場させ、どんな人でも「遠慮なくイキイキ働ける」をイメージしやすくしたという。
さらに「DEIは難しい理屈ではなく、面白いもの、職場の活性化が進むもの」という訴えかけを続けることで、ものづくりの現場が自らDEIの重要性を説く「面白動画」を作るようになるなど、少しずつ価値観に共感する人たちが増えていったという。
男性社員の育休取得などにも変化が
ある工場では女性のリーダーが登場したことで、重量物取り扱い対応のための補助具が導入されたが、その結果、腰痛に不安を感じていたベテラン男性社員からも安堵の声が上がった。「宇宙人」の登場が、「重くても我慢するしかない」という今までの仕事を見直す機会になったのだ。
栗山によれば、「私が天岩戸の前で踊っていると一緒に踊るメンバーが増え、その楽しそうな雰囲気にマジョリティー側も少し天岩戸を開けてのぞいてくるようになった」という。そのタイミングで栗山は間髪を入れず、「マジョリティーの特権を可視化する」というセミナーへ部門長たちを全員参加で送り込んだ。