最新記事
自治体

雨水活用の先進地域として国際的な注目を集める東京の「意外なあの区」

2023年8月10日(木)20時25分
岩井光子(ライター)

sdgs20230810_5.jpg

東京スカイツリーにも実は容量2635トンの雨水タンクが設置されている yaophotograph-iStock

現在、区内には約759カ所の大小の雨水貯留場所がある。区役所や両国国技館、江戸東京博物館、東京スカイツリーにはそれぞれ1000トンを超える容量の雨水タンクが設置されている。

総容量は約2万6000トン。容量は統計資料がないので全国順位はわからないが、区民主導で雨水活用の機運を高めた先進地区であることは間違いない。

 
 
 
 
 

1991年に村瀬さんの記事がジャパンタイムズに載ったことを機に、墨田区の取り組みは雨水活用を推進する国際組織に知られるようになる。

1994年、雨水をテーマにした日本初の「雨水利用東京国際会議」が区内で開かれた。開催後、会議の企画や運営に携わったメンバーが立ち上げたのが「雨水市民の会」だ。大学教授や村瀬さんを始めとする都の保健所職員、地域住民など雨への関心を媒介に多様な人材が集まった。

同会は雨の特質や役割、日本文化に息づく雨との豊かな関係性を知ってもらおうと、研究・調査、支援活動と並行して様々な勉強会や楽しいイベントを企画して、雨の負のイメージを払しょくする啓発活動にも力を入れてきた。

雨水タンクの効果を検証

「雨水市民の会」の発足から27年経った昨年は新しい動きがあった。日本のグリーンインフラ構築を支援する米コカ・コーラ財団の助成を受け、4年計画で「下町×雨・みどりプロジェクト」に取り組むことになった。実施主体は同会で、区や全国の雨水活用の関連組織、大学、研究機関と連携しながら進めている。

プロジェクトの主眼は、雨水を貯留することで実際下水に流れ込む雨量をどのくらい抑制できているのかをモニタリングし、データを検証することだ。負荷低減を定量化できれば、気候変動対策への効果が実証できる。

現在は排水ポンプ所の設置などで内水氾濫は以前より起きにくくなっているが、雨水をゆっくり流した方が良い理由は他にもある。

東京23区や都市部に多い汚水と雨水が合流する方式の下水道敷設地域では、大雨が一気に下水道に流れ込むと、処理しきれない上澄みがそのまま川や海に流れ出て水質悪化につながってしまう。東京オリンピックの会場となったお台場海浜公園で海水の悪臭が問題となったが、下水道への流出抑制は川や海の水質向上のためでもある。

さらに、運用面での課題もある。例えば集中豪雨前に区内の雨水タンクを全て空にできれば最大2万6000トン分の雨水を貯留して下水への負担を軽減できるが、雨水タンクが既に一杯なら、想定量の雨はためられない。

その辺りのルールは未整備なので、緊急時に協力体制を築く意義を周知することも、今プロジェクトの目標の一つだという。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、小売関連が堅調 円安も支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中