「陰謀論は犠牲者に失礼」ワシントン飛行機事故後の憶測にパイロットの妻が思うこと
Hurtful Criticism Over Crash

当て推量はやめて遺族に思いやりを示してほしいと言うパイロットの妻、キャノン SEVEN SOULS STUDIOS
<空中衝突事故の直後に氾濫した誤報や性急な批判...パイロットの妻は事実に基づく発言を求めている>
1月30日、寝起きの私が最初に目にしたのは、夫が送ってきたメッセージだった。「ワシントンの衝突事故について知りたいなら、一日中ニュースを見ているより多くのことを、この男性が教えてくれる」。
添付されていたのは現役パイロットで、航空安全に詳しいフアン・ブラウンのYouTube動画のリンクだった。
1月29日夜にワシントン近郊のロナルド・レーガン・ナショナル空港で、滑走路に着陸前の米旅客機と米陸軍ヘリが空中衝突し、近くのポトマック川に墜落した事故の状況について、動画は詳細に解説していた。TCAS(空中衝突防止装置)の仕組みや、着陸時などに警告機能が低下する理由も知ることができた。
全く知識がなかったわけではない。私は23年前からパイロットの妻だ。夫は30年以上、航空操縦に従事している。
私が驚き、不快に思ったのは、原因についてネット上に出回った臆測だ。こんな悲劇の最中に思い込みで物を言うのは、犠牲者や遺体の身元判明を待つ遺族への配慮と敬意に欠けている。
事故当初の事実無根の情報の1つが、乗組員3人全員が死亡した軍用ヘリの操縦士についてだ。トランス女性の兵士ジョー・エリスが操縦していたという誤報がSNSに氾濫し、エリスは自ら動画を公開して偽情報の「政治的思惑」を非難した。
米陸軍が遺族の同意の下、事故機の操縦士の氏名を公表すると、その飛行経験をあげつらうコメントが登場した。パイロットの妻として憤りを感じた。操縦をしたこともない人々が、訳知り顔で決め付けるのは不適切だと思えた。
疑問の答えや事実は、事故の捜査が終わらなければ分からない。愛する者を突然失った直後に、批判という二重の打撃を受けるのは遺族にとって本当につらい。