「質のよい睡眠がとれている人」は「やや太り気味」だった...「地中海食」と「睡眠」の研究
こうした観察研究の問題点は、食事が健康的だから睡眠の質が高くなるのか、睡眠の質が高いから食事も健康的になるのかがはっきり判断できないということだ。先にも述べたとおり、人には睡眠不足になるとジャンク・フードが食べたくなるという傾向もある。
そこで着目したのが、コーネル大学(ニューヨーク州)が実施したまったく新しい介入研究[*4]である。研究者側が被験者の食事を指定し、その食事が睡眠にどんな影響を与えたのかを分析したのである。
この研究では、26人の成人(男性13人、女性13人)に5日間、睡眠研究室で睡眠をとってもらい、睡眠中の脳波を詳しく調べている。このあいだ、被験者は、脂質、タンパク質、炭水化物、繊維質、糖質の量がそれぞれ異なる食事をとっていた。
その結果、飽和脂肪、炭水化物、糖質を多く含む食事をとった人は、眠りが軽くなり、夜中に目が覚めやすいことがわかった。一方、タンパク質や繊維質の多い食事をとった人は、寝つきもよく、深い眠りについていた時間も長かった。
このように地中海食が睡眠を助けるといわれているのには、さまざまな理由がある。
1 地中海食におなじみのオリーブオイル、脂肪分の多い魚、豆類、野菜といった食物には、オレイン酸、オメガ3脂肪酸、ポリフェノールなどの抗炎症性化合物が含まれている。炎症は関節炎やその他の痛みを伴う症状を引き起こすため、安眠の妨げにもなる。また、年齢とともに起こりやすくなる神経炎症(脳の炎症)も、睡眠不足や認知症の原因となることが知られている。
2 地中海食は腸内の「善玉菌」を増やしてくれる。善玉菌は、強力な抗炎症性物質や、不安を軽減するという「気分がよくなる」化学物質を生成する。夜眠れない主な原因は、あれこれ思い悩んでイライラすることなので、気分をよくしてくれるものなら、安眠効果もあるはずだ。
【参考文献】
[*1]Adherence to the Mediterranean diet is associated with better sleep quality in Italian adults. Nutrients, 2019.
[*2]Mediterranean healthy eating, aging, and lifestyles (MEAL)study.International Journal of Food Sciences and Nutrition, 2017.
[*3]Mediterranean diet pattern and sleep duration and insomnia symptoms in the Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Sleep, 2018.
[*4] Fiber and saturated fat are associated with sleep arousals and slow wave sleep. Journal of Clinical Sleep Medicine, 2016.
マイケル・モズリー(Dr. Michael Mosley)
医師。テレビ・プロデューサー。オックスフォード大学卒業後、ロイヤルフリー病院メディカルスクール(現・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン医学部)に入学。医師資格を取得後、テレビ・プロデューサーとして英国放送協会(BBC)に入局。BBC、アメリカのディスカバリーチャンネルなどに向けて科学・歴史ドキュメンタリーを数多く制作し、エミー賞など数多くの賞を受賞。医学番組制作に貢献した功績で英国医師会により年間最優秀医学ジャーナリストに選ばれる。「The Fast 800」や『週2日ゆる断食ダイエット』(幻冬舎)などベストセラー多数。
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