最新記事
エクササイズ

高齢者だけじゃない! 40歳から始まる「回復力の衰え」―医師が語る中高年の運動目標

2025年2月10日(月)11時21分
高田 明和 (浜松医科大学名誉教授、医学博士)*PRESIDENT Onlineからの転載

それじゃ得るより、失うほうが多いかも

たとえばテレビ番組では、若さ自慢の60代、70代のタレントや歌手が、ジムでストレッチをしたり、バーベルを上げたりして、体を鍛えていることを明かしたり、なかには、スーツの下には隆々とした筋肉があることがわかるほどの方もいます。

でも、彼らは若々しい肉体を資本にしてお金を稼ぐことを仕事にしており、そうせざるを得ない事情にある方々です(筋トレが趣味の人もいますが)。


肉体を酷使する職業ではないデスクワーカー、そして現役を退いている方は、過剰なストレスをかけてまで強靭な肉体をつくる必要はありません。やはり、過剰なトレーニングは、体に負担をかけるからです。

80歳を過ぎても、シビアなトレーニングをして現役を続ける人の多くは運動中の骨折、運動後の脳出血、激しい関節痛などで挫折を余儀なくされているようです。

若いころからスポーツ好きで、とりわけ、60歳を過ぎてもスキーやテニスに興じ、あるいはマラソン大会出場を目標にして毎日ジョギングをしている人たちの、健康への意識の高さは非常にけっこうなのですが、私が知るかぎり、そのように体を素早く動かしたり、スピードを競う運動を楽しんだりしている人には、80歳を過ぎてから病気に苦しんでいる人が多いのです。

肉体への痛みに加え、今まで自慢にしていた肉体が思うように動かなくなることから、自信喪失してしまうことも、その苦しみの原因になるようです。無理や苦痛がなく、楽しく運動ができているのであれば、続けても、なんら問題はありません。

ただ、知っておいてほしいのは、私のように人生でスポーツらしいことをほとんどしてこなくても、90歳近くまで特別な病気もせずに、気ラクに生きている人間だっているということ。

ズボラな方であれば、こんな私のような基準に合わせたほうが、よっぽどラクで快適ではないでしょうか?

体を動かせば、陰鬱な気分を撥ね飛ばし、活力がみなぎります。体内環境を良好にしていい睡眠をもたらし、疲労回復を早め、慢性疾患から自分を守るなど、たくさんのメリットが得られます。

しかし、これらを得るために筋肉量を増やす必要はないのです。

日常生活に支障なく体を動かせる程度の筋肉量を維持する運動でそうした効果を得ることはできます。普通の筋肉量の人が、軽度の運動習慣を持続するだけで、十分に間に合うでしょう。

「運動する習慣」以前に、「ケガを防ぐ習慣」をつくる

私がことさら、高齢者に無理な運動を勧めないのは、何よりもケガをすることを心配するからです。筋トレがブームの昨今は無視されがちなのですが、高齢になると、運動によって得られるメリットよりも、運動でケガをするリスクのほうが、はるかに大きいと思っています。

とくに意識する必要があるのは、「年をとると回復力が弱まる」という現実です。

若いころの感覚で「すぐ治る」と思っていたのが、気づくと痛みが1週間を超えて続いたり、しばらくベッドで寝たきりになったりするようなことが増えます。

そうやってほとんど体を動かさない日々が続くと、その間に、せっかく今まで鍛えて増やしてきた筋肉がすっかり削げ落ちて、鍛えていなかったころよりも減ってしまう、という本末転倒のようなことだって起きるのです。

そして、いくらケガが治っても、元の身体能力を取り戻すには、寝込んでいた期間の数倍の時間がかかりますし、それなりの費用のかかるリハビリが必要なこともあります。

65歳を過ぎたら、誰もが若いころよりも、視力や聴力、反射能力などが衰え、ちょっとした突起で躓いたりする体になっています。階段を下りきったと思って足を踏み出したら、もう1段あって転んでしまった......

なんてことは、いつ起こっても不思議ではないくらいリスクの高い体になっています。

そこへ、さらに運動というリスクを加えることは無謀とさえ思えるのです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、アルミ・鉄鋼に25%関税 例外措置を撤

ワールド

トランプ米大統領、就任後に中国・習主席と電話協議

ビジネス

米ベイン、富士ソフトTOB「撤回も選択肢」 KKR

ワールド

焦点:トランプ米大統領の対外援助凍結、世界で混乱広
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「だから嫌われる...」メーガンの新番組、公開前から大炎上の納得理由
  • 2
    極めて珍しい「黒いオオカミ」をカメラが捉える...ポーランドで発見
  • 3
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップルは激怒
  • 4
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 5
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 6
    36年ぶりの「絶頂シーン」...メグ・ライアンの「あえ…
  • 7
    世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍…
  • 8
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 9
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 10
    ウクライナ戦争終結めぐる「見返り要求」に、ゼレン…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    「嫌な奴」イーロン・マスクがイギリスを救ったかも
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中