【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る
THE AGE OF GENETIC SEQUENCING
ウルフと同じ病気の患者がメキニストを服用したことは過去に一度もなかった。だが服用後2日以内にウルフの症状は全て消え、10日後のPET(陽電子放射断層撮影)スキャンでは、ステージ4の腫瘍が80%減少していた。
ガウンダーは初めてウルフに会ったとき、余命2カ月と推定した。それから10年近くたった今も、ウルフの癌は再発していない。
ウルフのケースは、プレシジョン・メディシン(精密医療、個別化医療)の初期の例として、有力医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに掲載された。約10年後の今は、わずか数日で人間の全ゲノム配列を読み取れる。
この分野の進歩は驚異的だ。ある意味で進歩しすぎたと言えなくもない。
全ての遺伝情報を読み取る全ゲノム解析(WGS)は、特定の希少癌患者にとっても希望の星だ。最終的には万人のための個別化医療につながると、専門家は考えている。
しかし高額な費用と規制のせいで、利用は依然として限定的だ。一方で、この手法に疑問を持つ専門家もいる。現時点で解析可能なのは、WGSから得られるデータの2%程度だ。
癌治療のパラダイムシフト
「ダークゲノム」と呼ばれる残りの98%を調べることで、不治の病だった病気の治療法が見つかるかもしれないと、専門家は言う。だが、そのためには膨大なリソースが必要だ。
MSKの計算腫瘍学者エリー・パパエマヌイルによると、癌はゲノムの病気だ。ゲノム、つまり生物に含まれる全ての遺伝物質を調べることで、特定の癌の原因や治療法の手がかりを集めることができる。