【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る
THE AGE OF GENETIC SEQUENCING
全ゲノム解析は特定の希少癌患者にとって希望の星。研究所で希少な病気を特定する例も増える一方だ YUICHIRO CHINO/GETTY IMAGES
<わずか数日で人間の全ゲノム配列を読み取れるようになる―。全ゲノム解析により、希少な癌(がん)にも適切な治療法が選べるようになった。それでも依然として、残されている課題とは?>
多くの癌患者と同じく、ジャズピアニストのマイケル・ウルフも救いを求めていた。だが、2015年当時の状況は絶望的だった。リンパ腫の治療を何年続けても演奏活動への復帰はかなわなかった。
妻はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング癌センター(MSK)にセカンドオピニオンを求めるべきだと訴えた。
MSKの医師たちはウルフがリンパ腫ではなく、組織球性肉腫であることを突き止めた。アメリカでの罹患者は年に約300人という、珍しい血液の癌だ。
ウルフは、肉腫の専門医で医薬品開発の専門家メリナール・ガウンダーを紹介された。今は友人である2人によれば、最初の会話はこんな感じだった。
「この病気の診察経験が最も豊富な医師に診てほしい」と、ウルフが伝えると、ガウンダーは言った。
「私が一番多く診ている」
「何人?」
「10人」
ウルフはその10人がどうなったか聞かなかった。専門医もこの希少な癌をよく知らないことが分かったからだ。だが、ガウンダーにはある考えがあった──ウルフの遺伝子が答えを教えてくれるのではないか?
当時、遺伝子情報解析(シーケンシング)は新しい技術で、「SF作品のようなものだった」と、ガウンダーは言う。検査の結果、最近になって肺癌との関連が判明した変異が見つかった。
ガウンダーは、ある種の悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として認可済みのメキニストという錠剤が有効ではないかと考えた。
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