【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

THE AGE OF GENETIC SEQUENCING

2025年1月30日(木)19時41分
アレクシス・カイザー(ヘルスケア担当)

newsweekjp20250130050955-326caf0555653eb497f2c1261ac4706a6d7bfa91.jpg

治療の切り札となったゲノム解析のシステム RENAE WHISSEL

ヒトの細胞にはDNA(デオキシリボ核酸)の「完全なセット」が含まれていると、パパエマヌイルは言う。DNAには、細胞が体を正常に機能させるための指令が書き込まれている。

DNAの変異によって乳癌のリスクを高めるBRCA遺伝子など両親から受け継いだ変異もあるが、加齢に伴う自然なDNAの変異や、医師たちが人体への「圧力」と呼ぶ喫煙などによって生じるものもある。

変異したDNAは細胞に誤った指示を与え、細胞は通常と異なる行動を取る。このような細胞が増殖し、体を乗っ取ることで癌が発生する。


最新のゲノム解析を用いれば、細胞レベルの変化を正確に特定できる。それを正常に戻す治療法をピンポイントで適用できる場合もある。

専門家が癌の変異を解明するためには、基準点となる「DNAのコードブック」が必要だったと、パパエマヌイルは言う。最初の挑戦は容易ではなかった。

人間のWGSを目指すヒトゲノム計画には約13年の歳月と30億ドルの資金、6カ国にまたがる20の大学や研究機関の頭脳が投入された。2003年に公表された「完成版」は、癌や希少疾患研究における新時代の基礎となった。

それから20年以上がたち、ゲノム解析は大きく進歩した。患者のDNAを丸ごとスキャンできる技術が開発され、癌の原因となる最も一般的な「変異のカタログ」が作成された。これによって、より精密で個別化された癌治療が可能になった。

ウルフの診断に使われた検査法MSK-IMPACTは15年に登場した。「癌(治療)におけるパラダイムシフト」だったと、パパエマヌイルは振り返る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米アーティザン、セブンのCEO人事に反対 買収案の

ビジネス

銀行・信金の貸出平残、2月は+3.1% 24年7月

ワールド

トランプ氏、政府閉鎖「あり得る」も回避予想 14日

ワールド

ドイツ次期首相、仏英と核兵器共有で協議する意向
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 9
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中