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早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを拒否したのか?...「アンチ東大」の思想と歴史

2025年1月2日(木)08時30分
尾原宏之(甲南大学法学部教授)


「一、学校はO・Bの長男(又は特に選ばれた息子一人)に対し無試験入学の特典を与える。二、O・Bの長男が正規の試験に合格して入学を許されたる場合には、右特典を二男に与える。以下これに準ずる。三、右規定に基き、無試験入学を許されたる者は、一カ年の勉学の後、その成績が学校の定めたる標準に達しない時、退学せしめる」

校友の子弟や校友が推薦した者は極力入学させろ、という要求は、この時期の『早稲田学報』に数多く見られるものである。


 

高田早苗の入試有害論

彼ら卒業生の要求は、そう突飛なものではなかった。というのは、入試有害論は創設者の一人である高田早苗の持論でもあったからである。

明治40年代初頭、高田は上級学校への「入学」試験が、受験生をふるい落とす「拒絶」試験と化している現状を強く批判した。厳しい入学試験が学校教育を受験のための「詰込み教育」に変えてしまい、人物を育てるための教育を妨害しているというのである。

高田は「入学試験などを施さず、自然の径路に依つて、学生をして学問を継続せしむるだけの設備が整ふやうになる」ことが日本の学校教育を健全化する道だと訴えた(「現代学制の欠点」『早稲田学報』第152号、「教旨と風紀」同第176号)。

この理屈からすると、無試験入学こそが「正しき道」ということになる。いうまでもなく「拒絶」試験の最たるものは、旧制高校の入試である。

なぜ高校に多くの受験生が殺到しふるい落とされるのかというと、その先に帝国大学があるからである。

東大を頂点とするエリート校は、門戸を閉ざすことによってエリートたり得ている。ならば早稲田はその逆を行く。早稲田の入りやすさは、それ自体が高田の教育論に基づく、反・東大的な営為といえなくもないのである。


尾原宏之(Hiroyuki Ohara)
1973年、山形県生まれ。甲南大学法学部教授。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。日本放送協会(NHK)勤務を経て、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は日本政治思想史。首都大学東京都市教養学部法学系助教などを経て現職。著書に『大正大震災──忘却された断層』、『軍事と公論──明治元老院の政治思想』、『娯楽番組を創った男──丸山鐵雄と〈サラリーマン表現者〉の誕生』など。


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