最新記事
先端医療

がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がんだけを狙い撃つ、最先端「低侵襲治療」とは?

THE NEW AGE OF PARTICLE BEAM THERAPY

2024年9月20日(金)14時50分
長田昭二
陽子線治療

陽子線治療(写真)などの粒子線治療は正常組織にダメージを与えない BSIPーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<周囲の正常組織にダメージを与えない「粒子線治療」に注目が集まっているが、その利用を巡って医療現場では「ひずみ」も生じている──>

ダメージを少しでも減らす目的で、低い線量のエックス線をさまざまな角度から分散して照射し、狙った部位に必要な線量を当てる「IMRT」という照射法も普及しているが、それでも周囲の組織が無傷となることはない。

そこで近年注目されているのが「粒子線治療」だ。粒子は質量の軽いものから負パイ中間子、陽子、中性子、ヘリウム、炭素、ネオン、シリコン、アルゴンなどがあるが、がん治療に用いられるのは「陽子線」と「炭素線」。質量の大きい炭素線を「重粒子線」と呼ぶのが一般的だ。

この粒子線治療の最大の特徴は、周囲の正常組織にダメージを与えることなくがんだけを狙い撃ちする点、つまり「低侵襲」に尽きる。

照射源から一本の細い筋となって体内に侵入し、あらかじめ計算してターゲットとしていた部分で一気に最大線量に増幅。しかもその先には進まない「ブラッグピーク」と呼ばれる、まるでがん治療のために存在するかのような特性を持っている。

つまりがんの周囲の臓器はほぼ無傷のまま、がんだけを無力化することができる。

新技術ゆえ「ひずみ」も

同じ粒子線治療でも、「重粒子」と聞くと、陽子線よりも殺傷能力が高そうなイメージを持たれがちだが、必ずしも質量の大きさが治療成績に反映されるとは限らない。威力が大きい分、どうしても周辺臓器への影響を考慮する必要が生じる。

そのため実際には線量を下げた状態で照射することもあり、がん種によっては陽子線と治療成績に差が出ない──という結果もある。

新しい技術が登場すると、「われ先に」と飛び付くのが人間の性(さが)ではあるが、その影響としてがん放射線治療の領域に「ひずみ」が生じ始めている。

従来のエックス線治療よりも粒子線治療を、同じ粒子線治療を受けるなら陽子線治療よりも威力の大きい重粒子線治療を──と考える人が少なくないのだ。

一方、治療を行う医療機関の側にも「ひずみ」がある。日本では現状、重粒子線治療の約6割、陽子線治療の約5割が前立腺がんを対象に行われている。確かに前立腺がんは粒子線治療が健康保険の適用対象だが、この割合はかなりいびつと言えるだろう。

前立腺がんは一部を除いて進行が遅く、治療を急ぐ必要のないケースも少なくない。

逆に肺や食道、肝臓のように「心臓に近い部位」のがんは、IMRTが当たると数年から十数年という単位で被曝によるダメージが表面化し、晩期障害としての心不全で命を落とすケースも指摘されている。また小児がんのように発育障害や再発のリスクを考慮すべきがんにも、粒子線治療は有効だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、小売関連が堅調 円安も支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中