最新記事
先端医療

がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がんだけを狙い撃つ、最先端「低侵襲治療」とは?

THE NEW AGE OF PARTICLE BEAM THERAPY

2024年9月20日(金)14時50分
長田昭二

粒子線治療を行うには、広い敷地と極めて高額な先行投資が必要だ。それだけに、手っ取り早く前立腺がんで売り上げを伸ばそうと考える経営戦略も分からないではないが、医療である以上は合理的な優先順位を付けるべきだろう。

鉄道に例えるなら、重粒子線治療は新幹線、陽子線治療は在来線の特急、IMRTは山手線や大阪環状線のような近距離電車のようなもの。


「急を要さない前立腺がん」に重粒子線治療や陽子線治療を行うのは東京駅から品川駅まで行くのに新幹線や特急列車に乗るようなもので、効率的とは言えないのだ。

「健康保険が適用だから」と安易に捉えるのではなく、その疾患に最適な治療は何かを冷静に考える必要がある。

3次元の照射が可能に

そんな粒子線治療の世界に、大きな変化が起きようとしている。「ProBeam360°(プロビーム)」と呼ばれる最新型の陽子線照射システムが臨床導入を控えているのだ。

アメリカのバリアン メディカル システムズ社が開発したプロビームは、超電導サイクロトロンという加速装置を導入することで1回当たりの治療時間を短縮。

併せて360度全方位からの3次元照射を可能とし、あらゆる部位のがんに、大きさや形状に関係なく正確な照射ができる「スポットスキャニングシステム」を搭載した、陽子線治療装置の「究極の進化版」といえる放射線治療装置だ。

今年4月に日本初、世界でも2台目のプロビームが、岐阜県美濃加茂市の中部国際医療センターで稼働開始した。

先に触れた食道や肺のように「心臓に近い臓器」への照射において、その優位性を特に発揮するプロビーム。同センターでは従来から、腫瘍の近くにカテーテルで抗がん剤を注入して放射線を照射する「選択的動注併用放射線治療」に取り組んできた経緯がある。

これまでは舌がんを対象とした治療が行われてきたが、これにプロビームを使用することで、従来のIMRTを上回る治療効果が期待できる。

このように「プロビームならでは」「陽子線ならでは」の症例から優先順位を付け、難度が高いとされたがんの治療にもこの設備を有効活用していくことで、陽子線治療の、ひいては粒子線治療を含む放射線治療全体の治療成績の底上げを目指す。

がん治療における放射線治療の存在意義が、今後飛躍的に拡大していく可能性を秘めているのだ。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中